Z世代を通して見える「社会に余裕がない」原因 賢い人なら概念を厳密に定義できるという幻想
舟津:そもそも、成果主義は、バブル崩壊の救世主みたいな感じで90年代に急速に広がりました。でもそのときは失敗して、なんとなく忘れられたんですよね。それで、成果主義って何だったのか、ちょうどブームが終わりかけの2004年に書いておられて。
冒頭でいきなりこう言うんですね。「結論から言えば、私は、どのような定義をしたとしても、人事施策としての成果主義を行うことで、企業が活性化するなどと、期待することはできないと思っている」と。人事制度や報酬制度は、会社にたくさんあるルールの中のたった1つにすぎない。しかも、給与の一部分を変えるマイナーチェンジだけで何かが変わると思うこと自体が間違っていると書かれるんです。
勅使川原:冒頭に書いちゃうのがすごいですね。
舟津:カッコいいですよね。でも、業界でとても信頼されている方だから言える、というのはあるかもしれません。地味ながらもちゃんとしたことを主張している人は目に付きにくい。でも、都合のいいことを簡単に言ってくれる人は人気が出るので、目に付きやすくなる。単純すぎる構図ではありますし、もちろんすべてがそうではありませんけど、そういう現実はアカデミアでも見受けられるんだと思います。
勅使川原:アカデミアの人でも、驚くほど現実社会を過度に単純化して説明する方もいらっしゃいますもんね。
現代社会はハンモックのようなもの
舟津:そうですね。現実社会を単純化する効用はたしかにありますが、きっと欠点のほうが上回るだろうし、そもそも単純化すること、ここでいう単純化というのは「○○すれば勝てる」みたいな言説の提示ですね、は基本的にアカデミアの仕事ではないですから。
それで、最初に話した「余裕を持つこと」も、両面性から考えると意味がわかりやすいのかなと思います。これもある先生の受け売りではあるのですが、現代社会はハンモックのようなものだと。つまり、さまざまな要素が互いに引っ張りあって均衡を保っているものなので、ここだけが大事だと1つを強く引っ張ったら、ハンモックは成立しないんですよね。
勅使川原:たしかに、偏ったらそこで終了しますね。