頭痛を訴える40代女性「アレルギーが原因」の衝撃 「2人に1人がかかる国民病」の知られざるリアル

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マクフェイル氏が『アレルギー』で取材した免疫学者のスティーヴ・ギャリ医師(アメリカ・スタンフォード大学)は、ヒトの進化の歴史のある時点までは、アレルギー反応が体の防御機構として有益に働いていたのではないかと考えている。

虫や蛇の毒素から体を守ったり、危険な生物のいる草むらから逃げ出すための警告システムとしての役割を担ったりしていた可能性があるという。

アレルギー反応に関わる白血球の一種、マスト細胞が哺乳類の体内に出現したのは5億年以上前と推定されている。マスト細胞と、同じく白血球の一種である好塩基球、そして、1966年に石坂公成・石坂(松浦)照子の両博士によって発見されたIgE抗体などが関わりあって、アレルギー反応は雪崩のように展開されていく。

アナフィラキシーショックを起こした場合、アレルゲンを摂取してからわずか数分で心肺停止に至ることもある。かつては危険から身を守る役に立っていた可能性があることを考えると、アレルギーがこれほど急速かつ強力な反応であることも不思議ではない。

マクフェイル氏によれば、「枯草熱〔今でいう花粉症〕の症例分析が書かれたのはわずか200年少々前のことで、呼吸器アレルギーは少なくとも産業革命の始まりまでは広く見られるものではなかったと示唆する証拠もある」という。

ここ200年で農作物の栽培可能期間は延び(温暖化による影響が大きい)、ブタクサの花粉飛散量は急増し(空気中の二酸化炭素濃度に依存)、私たちの住環境・食生活は大幅に変化してきた。ヒトとモノが密集した都市型の生活や、その副産物として進んだ過剰な衛生志向は、職業病と同様の作用を広範囲の人々にもたらしているかもしれない。

アレルギーは私たちの生活そのものに関わる疾患

アレルギーが人々に与える重荷は症状そのものだけにとどまらない。

引き金となる物質(アレルゲン)の回避や治療薬の使用など、発症予防のための対策自体には少なからぬ金銭的・物理的・心理的負担がかかる。食物アレルギーのために外食や会食を避けなければならない方もいれば、湿疹や喘息、皮膚アレルギーの症状により人前に出るのをためらう方もいることだろう。

特に、アレルギーの種類によっては治療法の選択肢がまだ限られており、薬の長期使用による効き目の低下や副作用の不安は、日々の生活を送る中で差し迫ったものとなりやすい。現在、免疫系そのものにアプローチするしくみを含めて、新たな治療法の開発、そして予防策の検討・実施が世界各地で進められている。

5年間の取材を経て『アレルギー』を書き上げたマクフェイル氏は、アレルギーと共に生きる私たち自身を「環境変化という炭鉱におけるカナリア」と呼ぶ。現時点で患者たちが受けている影響は、やがてアレルギー持ちではない人々にも広がっていくことだろう。その影響は決して「気のせい」でも「気にしすぎ」でもない。

専門家らの推定によれば、2030年までにアレルギーの有病率は50%に達するという。もはやひとごとではないアレルギー。その診断、治療、研究、そして激変する世界の実態を、ぜひ知っていただきたい。

坪子 理美 英日翻訳者

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つぼこ さとみ / Satomi Tsuboko

英日翻訳者。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了。

訳書に『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』(東洋経済新報社)、『悪魔の細菌:超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い』『カリコ博士のノーベル賞物語』(中央公論新社)、『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち:『白鯨』でひもとく海の自然史』『なぜ科学はストーリーを必要としているのか:ハリウッドに学んだ伝える技術』(慶應義塾大学出版会)、『CRISPR〈クリスパー〉ってなんだろう?:14歳からわかる遺伝子編集の倫理』(化学同人)など。

共著書に『遺伝子命名物語:名前に秘められた生物学のドラマ』(中公新書ラクレ、石井健一との共著)、寄稿書に『アカデミアを離れてみたら:博士、道なき道をゆく』(岩波書店)など。

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