職業病としてのアレルギーは、農業・製造業以外の分野でもしばしばみられる。
医療従事者や実験科学者の間では使い捨てゴム手袋によるアレルギーが多発。アレルゲンの飛散が少ないパウダーフリー手袋や、天然ゴムを使わないラテックスフリー手袋が普及するようになった。絆創膏、包帯、コンドームなど、身近な衛生用品にもラテックスフリー製品が増えている。
また、著書『バッタを倒しにアフリカへ』『バッタを倒すぜ アフリカで』(いずれも光文社新書)で知られる昆虫学者の前野ウルド浩太郎氏は、研究対象であるサバクトビバッタに対する皮膚アレルギーを抱えていることを綴っている。
大学院時代からサバクトビバッタの捕獲、飼育、解剖を重ねた末、この虫に皮膚の上を歩かれるたび、赤くて痒い皮疹(前野氏の言葉では「赤き紋章」)が足跡のように生じるようになってしまったそうだ。
他にも、科学者が自身の研究材料に対するアレルギーを起こしてしまう事例はよく知られており、マウス(実験用ハツカネズミ)などへのアレルギーは実験動物を扱う研究者や実験補助員の20%にみられるという(阪口雅弘・白井秀治「実験動物アレルギー」『アレルギーの臨床』2022年5月号、北隆館、p.352-356)。
200年で激変したヒトの生活様式
蜂毒によるアナフィラキシーで父を亡くし、自身も呼吸器アレルギーの診断を受けたマクフェイル氏は、次のような疑問を抱く。アレルギー体質は遺伝するのだろうか?
「アレルギー」という語が生まれたのはつい1世紀ほど前のことだが、生命現象としての歴史はそれより長いと考えられている。古代エジプトには蜂刺されで命を落としたファラオがいるとも言われているし、イヌ、ネコ、ウマなど、ヒトと進化の道筋を共有する動物たちにもアレルギー性疾患は存在する。
つまり、大きな意味でいえばアレルギー体質は「遺伝する」。ただし、その体質が実際にどのような問題につながるかは、生活様式、さらには社会構造に起因する部分が大きいようだ。
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