小説家「予期せぬ人生の変化」二拠点生活の大正解 築75年"超ビンテージマンション"に低予算投資

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
高殿円
(イラスト/いまがわ)

場所を変えてみると、人の行動や発言も変化していく

2拠点生活を始めて2年目、自分でも予期しなかった変化があった。それは、別の場所に住んでいるときだけ「まるで人が変わったように明るくなる」という現象だ。

新しい場所に住むのだから、なるべく周りとうまくやっていきたいという気負いがそうさせたのか、それともまったく知らない土地ゆえ持ち前のリサーチ欲に火がついたのか。ともあれ私は、伊豆の家でいつもにこにこしている。

近くの魚屋さんでは積極的にお店の人と話し、名前も知らない魚を買って帰る。たとえば今日網にかかった不運な魚。金目鯛やフグといった高級魚ではない、かたちもぶさいくで食べられる身も少なさそうな、200円とか100円とかで、すみっこでついで売りされている魚。

「これ、どうやって食べたらいいですか?」と聞きながらコミュニケーションをとる。私はその魚屋さんが本当に好きなのだけれど、なぜか伊豆にいるときは、神戸にいるときより好きとポジティブが体の奥深くからあふれ出る。

相手を褒めたり、自分の気持ちを伝えたりすることに余計なストッパーがかからない。するとどうだろう。返ってくる気持ちや言葉もまた気持ちいいくらいに愛であふれるのだ。

「あらおねえさん、やっと来たね」

「うん、やっと来れたよ。ここが恋しかったよ」

人間はこんなにキラキラしてあったかい会話を何度も何度も交わせる、ということをこの歳にして知ったのは驚きだった。本心130パーセントはちゃんと相手に伝わって「あらあら、じゃあとっておきのを出してきましょうね」とお店のお母さんが言う。

SNSでもニュースのコメント欄でもとにかくギスギスした言葉が並んでいる昨今、人と人とのつきあいに疲れたり、給料の上がらなさを悲観したり、終わらない戦争のニュースに絶望したりしている人は多い。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事