植田氏の「タカ派への急変」(エコノミスト)に戸惑った市場。SMBC信託銀行プレスティアの山口真弘・投資調査部長は「潜在成長率が低くインフレが高進していないにもかかわらず、利上げへのハードルを下げるのはどうなのかとの疑問から、低金利通貨の円を売ってドルなどを買うキャリートレードの巻き戻しが活発化した」と話す。
7日には北海道・函館で開かれた金融経済懇談会に出席した日銀の内田副総裁が「金融資本市場が不安定な状況で利上げすることはない」と明言したのを受けて、株式相場が急伸。日銀の政策委員会メンバーの発言には当面、神経を尖らせざるをえない。
注目は8月下旬の「ジャクソンホール会議」
アメリカの景気動向も株価の行方を大きく左右しそうだ。今後、発表される経済指標に大きく左右される展開も考えられる。特に、8月22~24日に開催される経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」は例年にも増して注目が集まりそう。FRBのパウエル議長の講演が最大の焦点だ。
足元のリセッション入りへの警戒感の高まりを受けて、市場では年内に3回の利下げシナリオが勢いを増す。しかも、米金利先物の動きから金融政策変更の確率を判断するフェドウォッチによると、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)での0.5%利下げの織り込みが進む。1週間前の7月30日には約13%の確率だったのに対し、6日時点では同76%まで上昇した。
もっとも、前出のサーム・ルールの生みの親であるサーム氏は、アメリカのCNBCテレビのインタビューに対し、「アメリカの景気は減速しているが後退の領域には入っていない。1つのルールだけに頼ってはいけない」と答えた。市場関係者の間でも「FRBが適切な対応をすれば軟着陸(ソフトランディング)は可能」(国内証券)との予測が依然として優勢だ。
つまり、アメリカ経済のファンダメンタルズが急速に悪化したわけではなさそう。国内景気を取り巻く環境もしかり。利上げを急ぐ状態にはない。
だが、米国株は画像処理半導体(GPU)大手のエヌビディアなどいわゆる「マグニフィセントセブン」への過度の物色集中がかねて指摘されていたにもかかわらず上昇した。日本株も「円売り・日本株買い」の活発化で日経平均が4万2000円台まで急騰。株式相場の大幅な値下がりは短期筋や海外のヘッジファンドなどの持ち高調整の動きが広範に及んだのが主因と言えそうだ。
「理由のない値上がりの後に、理由のない値下がり局面を迎えた」(SMBC信託銀行プレスティアの山口氏)ようにも見える。
ただ、株価の急落で大きな痛手を負った投資家が多いのは確かだ。11月のアメリカ大統領選の行方が相場に及ぼす影響もきわめて流動的。7月のトランプ前大統領の銃撃事件を機に市場で広まった「ほぼトラ」や「確トラ」ムードは薄らぎ、ハリス民主党大統領候補の勝利を予想する「もしハリ」が取り沙汰されている。相場全般の乱高下には引き続き、注意が必要だ。
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