ミスドはなぜ「なんか、ちょうどいい空間」なのか 値上げしても業績絶好調、背景の「空間の魅力」
ファミレスだと、どうしても食べ物がメインになり、ちょっとだけ食べる、というのがなかなかできない。ドリンクバーで過ごすにしても、食べ物を注文しないと割高になり、それはそれでちょっと損をした気持ちになる……そんなジレンマを、ちょうど解決してくれるのがミスドなのではないか。
近年の都市空間では、ある程度安い値段で「だらだらと長居」することができる空間の需要が高まっている。再開発で街の高級化が進む中、チェーンカフェや、サウナ、シーシャなどは、そうしたニーズを満たしている。私はそんな場所を「せんだら」空間と呼んでいるが、まさにミスドはその代表例なのだ。
カフェのようにも使えるし、ちょっとしたファミレスのようにも使える、この「ちょうどよさ」がミスドの店舗空間の良さだ。それが、多くの人を惹きつけている理由なのだ。
ドーナツが並ぶ、あの「ワクワク感」がたまらない
ミスドの場所としての良さはそれだけでない。もう一つが②「『ワクワク』感を演出する商品陳列」だ。
ミスドでは、ドーナツはレジ横のカウンターにずらりと並べられ、客はその前を通りながら、ドーナツを選ぶ。
実はこれ、ウィンドーショッピングに他ならない。商品がずらりと陳列される様子を見ながらショッピングをするこの行為は、19世紀のパリで誕生した。それまで、人々は必要なものを必要なだけ商売人から買っていた。しかし、商品がずらりと並べられた様子を人々が見ることで、彼らの「買いたい」という欲望を生み出した。「買い物」がワクワクするものだという感覚を、ウィンドーショッピングは植え付けたのだ。
まさに、ミスドの陳列は、この原始的な「買い物欲望」を満たしている。実際、私もミスドの列にトレーを持ち並んでいると、ついついいろんな商品に目が入って、買う予定のなかったものまでトレーに入れてしまう……なんてこともある。
それにドーナツがずらりと並べられていると、なんだか興奮する。ワクワクするのだ。ここで重要なのは、例えばクリスピー・クリーム・ドーナツのような他のドーナツ店でも商品は並べられているが、それはわりあい、目線より下に並べられていることが多いことだ。
それがミスドだと、目線の下から上まで、視界がドーナツで埋め尽くされる。否応なく、ドーナツに囲まれている感覚に陥るのだ。ドーナツたちが「買って!」と私たちを、見つめてくる。
こうしたアナログな陳列は、コロナ禍では忌避されることが多かった。ドーナツがそのまま並べられていると、飛沫が商品に飛ぶ恐れがあるからだ。しかし、ミスドはこうした陳列はそのまま、ドーナツを透明なショーケースの中に入れた。これによって、安全と、ワクワク感の両方が担保されたのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら