北陸新幹線を喜べない富山県民の複雑な思い 「金沢独り勝ち」をどう克服するか

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JR時代、高岡駅には北陸本線の全特急列車が停車していた。高岡は、人口や都市機能では金沢、富山の両県庁所在地に及ばないながら、鉄路に関する限りは両都市と「同格」だった。だが、新幹線開業に伴い金沢以東の北陸本線はJR西日本から経営分離され、特急列車そのものが姿を消すことに。しかも、金沢駅、富山駅と異なり、高岡駅には新幹線が乗り入れない。そこへ追い打ちを掛けるように、最速タイプの通過が決まった。発表の直後、2014年9月に筆者が高岡市を訪れた際、乗り合わせたタクシーの運転手は「駅は離れた所にできるし、『かがやき』は停まらないし、新幹線開業はもう失敗に終わったようなもの」とうなだれた。市民の落胆は大きかった。

しかし、失意の底から高岡は新たな模索を始めた。「かがやき」停車を求めて市内の五十数団体が初めて結束し、周辺の市にも協力を呼びかけてJRへの要望活動を展開。一方では、各駅停車タイプの「はくたか」でつながる各都市との連携に着手した。活動が奏功する形で、JR西日本は同年12月、臨時の「かがやき」1往復を新高岡に停車させると発表し、市内の不安は底を打った。

2015年7月に高岡を訪れた時には、まちは自信や落ち着きを取り戻しているように見えた。「危機感を共有したことで地元が団結できた。関東や北陸新幹線沿線とつながりを深めている。この夏は長野商工会議所とも初めてゴルフコンペをする予定です」と布村調査役。「かがやき」の通過によって、高岡は「東京直結」「最短〇〇分」という呪縛を逃れ、沿線同士の連携に目を向ける機会を得たともいえる。

まちづくりの魅力をアピール

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「たかおかトートバッグ」と観光マップ

地道な努力も欠かさない。「伝統工芸のまち」という特色に加えて、国宝・瑞龍寺や加賀藩由来の歴史的建造物に恵まれた城下町としての横顔を生かし、いわば金沢と富山の間を行く形で、まち歩きの魅力をアピールしている。それを象徴するのは、観光名所・高岡大仏をあしらった100円の「たかおかトートバッグ」だ。新高岡の観光案内所で購入し、中に入った地図を手にまちを歩けば、商店街でいろいろな特典を受けられる。デザインしたのは富山大の学生たちだ。

北陸新幹線はまだ走り始めたばかりだが、長野―北陸間の新たな需要、中部・北陸一円の旅客流動、新潟県の立ち位置など、いくつもの着目点がある。長野市や新潟県上越市を含め、沿線の再編やまちづくりが今後どのように進むのか。興味は尽きない。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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