それらの言葉の裏に、大きな果実を得つつあるように見える金沢への反発、おそれを感じることもあった。地元のメディア関係者は開業後の心境を「金沢に圧倒される思い」と口にする。2015年6月19日付朝日新聞記事(電子版)によると、あるホテルチェーンの同年3~5月の客数は、富山市内が前年比10~20%増なのに対し、金沢市内は25~40%増。東北新幹線・八戸開業時や新青森開業時に比べれば、富山の実績は十分にうらやむレベルだ。しかし、金沢が「その上」を行ってしまうため地元は喜ぶに喜べない――。
富山県には、新幹線開業前から有形無形の「新幹線効果」が現れていた。YKKグループは本社機能の一部を東京から富山県黒部市へ移し、川崎市のユースキン製薬は2016年、富山市に新工場を稼働させる。富山駅前の地価は2014年、前年より6.5%アップした。企業進出や地価のアップは、東北新幹線・新青森開業時などにはみられなかった現象だ。ただ、新工場の進出は金沢市でも事例があるうえ、金沢駅前の地価上昇率は商業地として全国トップの15.8%に達していた。
新幹線開業は失敗だった?
富山藩はもともと加賀藩の支藩として誕生、廃藩置県後もいったん富山県が成立したにもかかわらず、石川県に合併され、再び独立した経緯がある。北陸の中心的都市・金沢を強く意識しつつ、独自の歴史と文化、産業を築き上げてきた富山。新幹線をどう使いこなして、金沢との新たな関係をつくり上げていくのか。
北陸新幹線開業で最も大きな試練に直面している沿線都市のひとつが、金沢と富山に挟まれた富山県高岡市だろう。新幹線駅・新高岡はJR高岡駅の1.8km南方に位置する。中心市街地は高岡駅を挟んで北側に広がり、新高岡駅は水田と住宅地に囲まれている。目と鼻の先には巨大なイオンモール高岡が建つ。市は新幹線開業に備えて高岡駅をリニューアルし、利便性は大きく向上したが、新高岡駅の立地への不満は今もくすぶる。
加えて2014年8月、「かがやきショック」が市を揺すぶった。最速タイプの列車「かがやき」は新高岡に停車させないことをJR西日本が発表、市や経済界が猛反発した。「新高岡は能登や飛騨への玄関口。当然、最速タイプが停車するという想定で二次交通などの準備を進めていた」。高岡商工会議所の布村雅之企画調査役は振り返る。
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