ロッテの「お家騒動」がこんなにコジレるワケ 日韓を股に掛けた兄弟間闘争は第2幕へ

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かつて「韓国経済の中興の祖」といわれた現代グループは、創業者の故・鄭周永(チョン・ジュヨン)氏の息子たちで「皇子の乱」と呼ばれたお家騒動が勃発、グループは分裂してしまった。サムスンも、現在病床にある李健煕(イ・ゴンヒ)会長が後継者とされた際、三男である健煕氏に対し、長男らが反旗を翻したことがある。

オーナーとその一族を中心とした経営支配という性格や、韓国経済における財閥企業の影響力が原因となり、簡単にお家騒動に発展することが多い。「結局は、オーナーがきちんと後継者をどうするか考えていない証拠」と藤田東アジア研究所の藤田徹代表は指摘する。

商社マンとして韓国ビジネスに精通している藤田氏は、今回のロッテのケースを「多くの韓国財閥が2代、3代目を迎えようしている中、まだ創業者が生存し、かつ影響力を持つ少ないケース」と前置きしたうえで、「事業領域が日韓だけだったらうまく機能していくだろうが、すでにグローバル化され、日韓の枠に収まらない。第三国でのビジネスをどうしていくか、武雄氏がうまく交通整理をしていなかったのだろう」と語る。

深まる武雄氏の変心の謎

今後は、まもなく開催される予定の株主総会が争いの場となりそうだ。宏之氏は自らに友好的な株式を6割以上、昭夫氏は5割以上保有すると主張。ここでも食い違いが見られる。また、今回の騒動を招いた武雄氏の判断の是非についても争われるだろう。

今回の一件が発覚した後、宏之氏は武雄氏との会話内容の録音と武雄氏の署名がある指示書を韓国メディアに公開した。7月17日に作成されたとの日付がある指示書には、宏之氏をロッテグループの経営全般と財務管理を担当する執行役員社長に任命し、日本ロッテHDの佃社長以下6人の役員を解任すると記されていた。

これら武雄氏の考えとされる内容が宏之氏側から出されたことと、指示した内容が本当であれば、なぜ今年初めに宏之氏を解任したのか、まったく筋が通らない。宏之氏は「私の経営に父の誤解があった」と韓国メディアに説明しているが、その誤解が解けたからなのか。

現在、宏之氏は韓国で「7月初旬に、父が昭夫氏を殴った」「もう一度妥協点を探してみようと(昭夫氏に)提案したが拒否された」「日本で株主総会があれば自分が有利」などと、韓国メディアに積極的に自分の立場をアピールしている。

8月2日には、宏之氏側が武雄氏のメッセージ映像を公表。この中で武雄氏は「国民に謝罪する」と述べた後、「私を経営から排除した次男(昭夫氏)を許せな い、長男が株主総会で勝利し、私も復職する」と述べた。さらに「(昭夫氏を)ロッテ会長、ロッテHD代表に任命したことはない」と述べている。

韓国中堅財閥の関係者は「今年1月以降、武雄氏と2人の子供たちの間に何があったかは知らないが、結局、まずは長男が継ぐという順番を守るべきと武雄氏が思い直したのかもしれない」と語る。だが「そうだとしたら、あまりにも稚拙な判断であり、今の経営状況に合わない」。

いずれにせよ、武雄氏は現在92歳。齢を重ねていながら、きちんと将来を見据えて後継者問題を考えきれていなかったのかとの疑問が湧く。前述したように、サムスングループや現代自動車グループは2代目から3代目への移行期を迎えつつある。経営者の後継体制構築がおろそかになれば、今後も韓国でこのような骨肉の争いを目の当たりにすることになるだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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