追加利上げでも変わらない住宅ローンの超低金利 優遇幅の拡大でなお続く「新規顧客の獲得競争」

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auじぶん銀行の場合、携帯電話や光回線、新電力といったKDDIグループのサービスを利用すると、適用金利が最大で0.179%まで引き下がる。「金利が下がるなら」と、借り入れを契機にグループのサービスに加入する利用者が多いようだ。

基準金利を引き上げて既存顧客の利息負担が増せば、より金利が低い他行に借り換えられるだけでなく、KDDIグループのサービスからの離脱も招きかねない。

「利上げ局面を経験していない銀行は、難しい対応を迫られるだろう」。別のネット銀行幹部はこう指摘する。auじぶん銀行が住宅ローンを開始したのは2015年。今回は初めて経験する利上げ局面だ。「金利の引き上げが既存顧客の借り換えをどの程度惹起するのか、他行の動きから見極めようとしているのではないか」とも話す。

同様に、2019年に住宅ローンに参入したPayPay銀行も、基準金利は現在まで引き下げ一辺倒だ。

逡巡する他行を尻目に、「独歩高」を突き進むのが楽天銀行だ。マイナス金利が解除された3月以降、同行の基準金利・適用金利はともに右肩上がり。8月時点で変動型の適用金利は0.733%に達した。

「ペーパーマージンしか確保できない」。永井啓之社長は、住宅ローンから距離を置く姿勢を公言する。同行はかねて住宅ローンの利ザヤの薄さを問題視しており、金利競争から一抜けした。

金利を上げたことで新規顧客の流入は減っているが、代わりに楽天カード債権の買い入れや投資用マンションローンなどで収益を補う。長期的な取引につながる住宅ローンビジネスを戦略上どう位置付けるかが、金利の引き上げにも影響を与えている。

消耗戦はまだ続く

都市銀行や地方銀行の住宅ローンは、短プラを基準金利として参照している場合が多い。三菱UFJ銀行やりそな銀行は9月から短プラを0.15%引き上げる予定で、他行も追随すると見られる。

既存顧客にとっては、基準金利につられて適用金利も上がるため、利払い負担が増える。一方、新規顧客については、短プラが上昇した分だけ優遇幅を拡大させることで、足元の超低金利のまま適用金利を据え置くかが焦点になる。

今後は預金金利も上昇するため、銀行としては「金利を引き上げたい」のが本音。とはいえ、基準金利を上げれば既存顧客の借り換えを招きかねず、適用金利を上げれば新規顧客の流入が絞られる。本格的な「金利ある世界」に突入してもなお、住宅ローンの消耗戦は終わりそうにない。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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