実際、昨年にコクヨが最上位のワークチェアとしてインスパインを発表した際も、(メーカーとしての言い分はあるのだろうだが、筆者の第一印象としては)デザインにとりわけ強い印象は感じなかった。各社とも最上位モデルには、ラディカルで注目が集まりやすいデザインを採用しているのに対して、インスパインのデザインは全体を俯瞰するかぎり凡庸だ。
全体のフォルムはいたって普通
1本のワイヤーを左右に6回渡すことで腰部を支えるワイヤーランバーサポート機能は、その大きな調整ダイヤルと共に目を引くポイントで、ポリッシュ仕上げの背面フレーム部をクローズアップすると、美しいラインとコントラストを感じる。しかし、全体のフォルムはいたって普通だ。
メッシュ素材が流行する中、背面こそメッシュ仕上げだが、座面にはメッシュを選べない(近年の製品にはメッシュ素材の座面とファブリッククッションの座面が選べるものも少なくない)ことなども、普通な印象を与えている部分だろうか。
しかしながら、インスパインのよさは、まさに座った感覚にある。今どきの高級ワークチェアは、座面の深さ、座面角度の調整、ランバーサポートの強度や位置、肘掛けの高さと角度調整、リクライニングロックや強度調整など、たいていの機能に大きな差異はない。その調整範囲や全体のディメンジョンには違いがあるため、実際には、自分で座って調整を試みるのがよいが、インスパインにはもっと基本的な部分での違いを感じた。
たとえば、ハーマン・ミラーのベストセラーワークチェアで、高級ワークチェアの代名詞とも言えるアーロンチェアは、調整項目の多さやメッシュネットを使った斬新なデザインと構造、それに前屈みのデスクワーク時に前に傾いた姿勢を取りやすくする機能などの導入で人気を博した。実は前述のワークチェアを購入する前、1カ月ほど使っていたこともあった。
しかし、一方でアーロンチェアは、つねに前向きに仕事に取り組む姿勢が求められるような、気を緩めた姿勢を許さないという印象も同時に受けた。たった1カ月で交換したのはそうしたことが理由だった。
同じハーマン・ミラーのエンボディチェアは、リラックスした後傾姿勢での背中を包み込む感覚や、お尻にかかる圧力の分散感に優れている。軟質素材を多数のジョイントで結ばれた背面フレームで支える構造は、メッシュネットを用いた背面よりも、背中にかかる圧力が均一で心地よい。しかし、ふと前向きの姿勢を取ろうと思うと、エンボディチェアはその魅力を失ってしまう。
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