松下幸之助は、「聞く心」を大切にしていた 問題意識があれば「風の音」からも悟る

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松下幸之助が中小企業の経営者の方々を対象に「ダム経営」について話したことがある。ダム経営というのは、川にダムをつくり水を貯めるように、企業も余裕のある経営をしようという松下の持論であった。

強い願望を持つことが大切

話が終わって、400人ほどいた経営者の中のひとりが手をあげ質問をした。「おっしゃるとおりなのですが、なかなかそれができないのです。どうすればダムがつくれるのでしょうか」

これに対して松下は「やはりまず大切なのは、ダム経営をやろうと思うことですな」と答えた。会場からは「なんだ、そんなことか」という失笑が起こった。

しかし、その中にひとり、衝撃を受けた人物がいた。それは京セラを創業して間もないころの稲盛和夫氏で、まだ経営の進め方に悩んでいた頃であった。のちに、このように語っている。

「そのとき、私はほんとうにガツンと感じたのです。何か簡単な方法を教えてくれというような生半可な考えでは、経営はできない。実現できるかできないかではなく、まず『そうでありたい、自分は経営をこうしよう』という強い願望を持つことが大切なのだ、そのことを松下さんは言っておられるのだ、と。そう感じたとき、非常に感動したのです」

400人ほどの経営者が同じ話を聞いている。しかし、そのように受け取った人は一人しかいなかったと言っていい。稲盛氏には、そのように受け止めるだけの力量があったということである。のちの京セラの発展は改めて説明する必要もないと思う。

「なあ、きみ、人間の心は広がればなんぼでも広がっていく。縮まればなんぼでも縮まって、しまいには自殺までしてしまうんや。それほどの間を大きく動くわけやね。だからどんどん知恵が出ておるときには、非常にいい知恵が出る。しかし知恵が閉ざされてくると、どんな知恵も出ない。それで失敗してしまう」

そのような特質を、人間の心は持っている。心が変われば行動が変わり、成果が変わる。さて今、私たちの心は、風の音を聞いても悟ることができるほど、問題意識を持っているだろうか。生き生きと活動しているだろうか。

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