「社員を監視するテクノロジー」が導入される恐怖 「支配される人」ばかり監視されるディストピア

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エネルギー大手のエンロン社が経営破綻したり、バーナード・マドフのマルチ商法が行き詰まったりしたのは、平社員がペーパークリップをいくつか盗んだからでも、勤務時間中に20分ほどYouTubeで猫の動画を眺めていたからでもない。そうした平社員を支配している人自身が、悪質な振る舞いをし、途方もなく大きな害を招いたからだ。

さまざまな推定によると、ホワイトカラー犯罪は、アメリカだけでも毎年2500億〜4000億ドルの損失や損害を引き起こしているという。

アメリカの街中で行われる不法侵入、強盗、窃盗、放火といった財産犯の被害額をすべて足し合わせても170億ドルをわずかに上回るだけであり、ホワイトカラー犯罪の損害はその15〜25倍の額に達する。

控え目な推定によると、主に有毒化学物質、不良品、毒性廃棄物や有害な汚染物質への曝露(ばくろ)、厳格な検査なしに提供される依存性物質に関連した企業の違法行為のせいで、毎年およそ30万のアメリカ人が亡くなることもわかっている。これは、アメリカで毎年自殺する人の数のざっと20倍にもなる。

それにもかかわらず、企業の本社で最も監視されているのは、そのような深刻な害を最も及ぼしそうでない人であることがあまりにも多い。

支配される人ではなく支配する人を監視せよ

重役室や役員室は不透明なままだ。役員室は隠しマイクで盗聴されないし、役員がGPSソフトウェアで追跡されることもない。オープン・プランのオフィスの長所を絶賛するCEOたちは、たいてい自分の執務室の閉ざされたドアの向こうに引っ込んでいる。

トップレベルの重役たちに「生産的」に時間を使わせるために、彼らのキーストロークが記録され、精査されることがないのは請け合いだ。

これはなにも、そこまで厳格な監視をしはじめるべきだというわけではなく、むしろ、どんな監視をするにしても、まず上層部を対象にするべきである、ということだ。

交通規則や信号を無視して道路を横断するありきたりの人々ではなく、中国の腐敗した共産党こそ、はるかに厳しい精査を受けて然(しか)るべきだ。

支配される人ではなく、支配する人のことこそ、私たちは懸念する必要がある。自分の腐敗した行為が監視されているのではないか、と権力を握っている人々が心配していたなら、世の中はもっと良い場所になるだろう。

(翻訳:柴田裕之)

ブライアン・クラース ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン准教授

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Brian Klaas

ミネソタ州で生まれ育ち、オックスフォード大学で博士号を取得。現在はユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの国際政治学の准教授。『アトランティック』誌の寄稿者で、『ワシントン・ポスト』紙の元ウィークリー・コラムニスト。受賞歴のあるポッドキャストPower Corruptsのホストを務めている。個人のホームページはBrianPKlaas.com、Xのアカウントは@BrianKlaas。

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