草笛光子「美しすぎる90歳」勇気をもらえるその姿 主演映画がシニアのみならず50代にも刺さりまくり
執筆業から離れ、のんびりと暮らす主人公だが、耳が聞こえづらく、テレビの音量を上げるしかない。イライラする。体が痛い……。本人はヘトヘトなのに、周りはまだまだ大丈夫と軽く言う。そして「90歳、何がめでたい!」とヤケクソ気味に、ひとり呟くのである。
それが、半ば無理やり執筆業を再開することで、活力が戻り、ラストで言う同じセリフ「何がめでたい」の言葉の温度は、まったく違ったものになっていく。
疲れ果てていた佐藤愛子が久びさに原稿を書き、「感動した」という電話を受けたとき、エネルギーが満ちてくるようにジワジワ笑顔になり、深呼吸するシーンは必見だ。
「いい爺さんなんてつまんないわよ」
映画で、佐藤愛子復活のきっかけとなるのが、50代の担当編集者、吉川である。演じる唐沢寿明はちょっとした怪演だ。すぐに唐沢と気づかなかったほどである。ぼさぼさの髪、黒メガネ、大きな声、遠慮のない発言、抑えても抑えてもあふれ出る威圧感!
吉川は無自覚なセクハラ、パワハラをくり返し、部下に煙たがられて異動になってしまう。いわば、典型的な“昔の価値観”を背負った役回りである。
家庭より仕事。“24時間働けますか”的なモーレツビジネスマンだった彼は、これまで推奨されてきた働き方が、全否定される“社会人迷子”状態だ。挙句の果てには、家族にも嫌われていたことが発覚するのだ。
彼の
「人生100年っていうじゃないですか。もしあと50年もあるとしたら、途方に暮れます」
というセリフは、身につまされる。
生きてきた経験が活かせないのだから「もう動けない」。しかしリタイアまでのカウントダウンは長くなる一方。確かに、途方に暮れる。
映画で、佐藤愛子が吉川にかける、
「いい爺さんなんてつまんないわよ。面白~い爺さんになりなさいよ」
という言葉は、動けなくなった人たちにとって、最高のエールではないだろうか。
コロナ禍を境に、急激に変わった価値観。デジタルについていけず、時代に置いてきぼりになった高齢者と社会に置いてきぼりにされてしまった50代。その2人が、アップデート(今の若者に合わせる)ばかりではなく、時代遅れを活用する。
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