確かに、7月5日の国民投票は、EU側が提案した改革案について問うものだった。それに対する反対が過半数を占めた。しかし、EU側の改革案のどこの何について賛否を問うたのかは、実は判然としない。
また、国民投票の反対票が、ギリシャ側が改革案を再提示することを拒む意味を持つとは理解しにくい。極言すれば、EU側の改革案と似た内容の改革案を、ギリシャ側から提示してよいか否かを国民投票で問うたわけではない。
と考えれば、国民投票の結果は、ギリシャ側が、EU側の改革案と似た内容の改革案を提示することを拘束するものでない以上、ギリシャ側からそれを提示しても国民投票の結果と矛盾するものではないとは言えよう。
ましてや、チプラス政権がEU側と約束した改革案について、ギリシャ議会で議決する際、与党から造反する議員が一部にいたが、野党が賛同して可決したことからみても、事前に根回しがあったと想像するに難くない。現に、財政改革の一括法案は、賛成229票、反対64票と賛成多数で可決した。与党からは39人が反対に回り造反したが、親EUの野党はこぞって賛成した。これにより、早速7月20日からレストランや公共交通での付加価値税率が引き上げられる。
ギリシャへの要求は、本当に厳しすぎるのか?
ギリシャに対して、緊縮財政策を求めることは、第1次世界大戦後のベルサイユ条約によって巨額の賠償金を課されたが、その支払いをめぐり経済が混乱した当時のドイツを想起させ、厳しすぎるとの批判が内外にある。さらに、財政収支改善が必要なときに、経済成長を促すことが先か、歳出削減や増税などの収入確保が先か、という議論も惹起させる。
ギリシャへの対応について、厳しい緊縮財政策を課すべきでないという見方は、緊縮財政策がかえってギリシャ経済を落ち込ませて、財政再建を遅らせるという懸念と表裏一体である。財政再建を進めたければ、経済再生を先にした方がうまくいく、という見方である。
果たして、それは妥当な見方だろうか。
まず、ギリシャの財政状況は、今に始まったことではない。第1次支援は、2010年5月に約1100億ユーロ行われている。次いで、2012年3月に約1730億ユーロの第2次支援も行われている。
その支援の際には、財政再建策についてもギリシャは受け入れて実行してきた。しかし、それでもギリシャは、付加価値税率に6.5%や13%という軽減税率が多分に残され、年金の支給開始年齢は、ドイツなどEU諸国では67歳になっているにもかかわらず、62歳前後までしか引き上げられず、財政赤字が残っている状態で、再三の金融支援を求めてきたということだ。
ギリシャを支援する側のEU諸国では、国民に痛みを伴うような財政政策をしているのに、ギリシャは財政政策でそこまで厳しく臨んでおらず、さらに債務棒引き(ヘアカット)も含めた金融支援をギリシャが求めてきたわけで、それを見てどう思うだろうか。支援を求める前にすべきことがある、という考えが出てきて何ら不自然ではない。それが、ギリシャとの交渉において、ドイツやオランダやフィンランドなどが臨む厳しい姿勢にも現れた。
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