ユーロ圏の持つ「構造的な欠陥」とは何か ギリシャに改革を求めるだけでは解決しない

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為替レートによって収支の調整が行われないという意味では、例えば日本国内の一定地域とそれ以外の地域との間の収支もユーロ圏と同じ状況にある。例えば、特定の県の県境で収支が確認できたとすれば、地方の多くの県では県外との収支(経常収支)は赤字だろう。

このような状況は高度成長期以降ほとんど変わらないと思われるが、こうした状態が長年続いても、ギリシャのような問題が起きないのは、地方交付税制度によって多額の所得移転が行われているからだ。現実には夕張市のような例を除けば、日本では地方自治体の収支で著しい赤字はほとんど見られない。しかし、地方交付税制度がなかったとしたら財政収支が大幅な赤字となっている道県があり、県外との収支(経常収支)もかなりの赤字になって、県外からの資金の借り入れに依存していたと考えられる。

所得移転による格差是正もできない

ユーロ圏の問題として、金融政策は統合されていてECB(欧州中央銀行)が決定した金利が一律に適用されるのに対し、財政政策は各国がばらばらに行っているからだと説明されることが多い。財政政策を統合することが必要だということになるが、単に各国が行っている財政政策を制限するだけではうまく行かないだろう。所得水準の低い国々と高い国々の間の格差が、何もしなくとも自然に縮小するとは考えにくい。

財政の統合ということの中には、一人当たり所得の多いドイツなどから、一人当たり所得が低いギリシャなどへ、毎年かなりの規模の所得移転を行うということが必要になるはずだ。ユーロが発足する際には、こうした問題を十分に検討すべきだったのだ。しかし、欧州を統一するという政治的な野心のために、現実の経済が引き起こす問題への対応策は棚上げされていた。ギリシャ財政の「粉飾決算」がユーロ圏の危機が悪化する直接の引き金となったが、それがなくてもいつかは問題が顕在化したに違いない。

さて、日本の場合ギリシャとは違って、海外に多額の債務を負っているということはないので、問題は国内の債権と債務の調整だ。法律によって債権を削減したりすることは不可能ではないが、現実には政治的に非常に難しいだろう。誰が債務削減(国債の帳消し)でどれだけの金融資産を失い、誰が債務履行(国債償還)のために増税や歳出削減という形でどの程度の負担を負うのか、誰もが自分の負担を軽くしようとするはずだから意見はなかなかまとまらないだろう。

国内問題であるからこそ、利害の調整がより難しいという側面もある。海外との関係であれば、ギリシャ問題のように資金を貸した国々や国際機関が登場して、厳しい政策を強いて、これ以上問題が拡大しないようにする。しかし、国内問題では誰も本質的な解決に取り組まず問題は先送りされて、その間に問題がさらに拡大するということになりがちだ。日本はギリシャとは違うから大丈夫ではなくて、逆に誰も厳しいことを言わないので問題がもっと深刻になる恐れが大きいことを肝に銘じるべきである。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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