統計の誤差を無視すれば、経常収支の赤字はそれと同額の海外からの所得移転を受けるか対外資産の減少(=対外債務の増加)があるはずだ。先進国では、普通の状況では国際機関や他の国々から大規模な資金援助を受けるというようなことはないので、資本移転等収支が大きな黒字となることはない。したがって、ギリシャの経常収支の大幅赤字(マイナス)は、金融収支の大幅なマイナスによって相殺されていた。つまり、海外から毎年多額の借り入れをしていたのだ。
一方、ギリシャが対外債務を返済していくということは、金融収支が黒字になるということだから、今度は逆に経常収支は黒字になっていなくてはならない。しかし、これを実現するためにはギリシャに「構造改革」の実施を求めるというだけではとても無理だろう。
そもそも大幅な経常収支の赤字が続いていたというところからみて、ユーロに参加した際にギリシャの旧通貨・ドラクマの対ユーロでの換算率が高く、ギリシャ国内の物価が他のユーロ圏諸国に比べて高過ぎたとみられる。
仮に百歩譲って2001年にギリシャがユーロを導入した際に、ギリシャと例えばドイツとの消費者物価の水準が等しかったとしても、その後ギリシャの物価上昇率が高かったために、2012年にはドイツよりも2割近くも物価水準が高くなっていた。
通貨下落による収支の調整ができない
ギリシャにはめぼしい輸出品がないことが貿易収支の大幅な赤字の原因とされるが、国内物価が他のユーロ圏諸国に比べて割高となっていたため、割安な製品の流入を加速して赤字をさらに拡大させる方向に働いたはずだ。また、国際収支の黒字を稼ぐ観光業でも、ギリシャ旅行が割高となって需要が抑制されていたと考えられる。
仮にギリシャがユーロに参加しておらず、そのまま昔の通貨であるドラクマを使っていたとすれば、物価が高くなり過ぎて大幅な経常収支赤字が続けば、ドラクマは下落する。そしてドラクマの下落によって、輸入が減少して輸出や観光業の黒字が拡大して、貿易・サービス収支の赤字を縮小させるというメカニズムが働いたはずだ。
しかし、同じユーロを使っているギリシャとドイツの場合には赤字を縮小するためには、物価の格差が縮小してドイツからの輸入が減少するか、ギリシャの所得が大きく減少して輸入ができなくなってしまう必要がある。厳しい緊縮財政によって物価上昇率が低下したのでドイツとの価格差は縮小しているが、まだその差はかなりある。ギリシャの失業率は20%を超え、所得の減少で輸入ができないという効果も大きい。IMFの予測では2020年でも物価の差はかなり大きく、まだまだ厳しい状況が続く。
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