超緩和政策は金融市場に歪みをもたらした 低金利で得をしているのは一握り

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また別の要因と考えられるのは、世界的な金融危機がきっかけとなって講じられた金融健全化規制だ。金融機関は、高リスクの投資に対し高い資本要件を強制されるようになり、国債保有に駆り立てられている。結果として、生産的投資への貸し付けに回せるカネが減ることになる。ほとんどの国では投資が金融危機前の水準に戻っていない。

「正常な」金利への回復は近々実現しそうにない。むしろ、さらなる金融抑圧と、投資の不振、経済的・社会的緊張の高まり、貧しい年金受給世代の増加が予想される。

銀行や保険会社には困難な時代

今後は、投資家が安全資産にプラスの金利を期待するのは、理にそぐわないのかもしれない。私たちは、自分のカネを安全に保管するには、むしろ中央銀行や政府に金利を払い、プラスの収益は、何らかのリスクを取って初めて期待できるようになるのではないか。

原因の一つには、投資が以前の水準に届くことはないと考えられることがある。アプリの開発に高額の設備投資はいらないからだ。

退職後に健康に暮らせる期間が長くなり、その一方で政府や雇用主からの所得支援は以前よりもずっと縮小すると予想されるので、人々は働き盛りには懸命に働かねばならないと理解し始めている。言い換えれば、今貯蓄を増やすことは理にかなっているのだ。

長い目で見れば、このようなすばらしい新世界は、それほど住みにくい場所ではないのかもしれない。しかし、そこに至るまでの移行期は、金融業者つまり銀行、資産管理会社、とりわけ保険会社にとって、極めて困難な時期となるだろう。

金融危機への対応策を講じるうえで、長期的な民間投資の回復を妨げるような誤ったインセンティブを生み出してしまったのではないか。そんな疑問が規制当局に対して突き付けられている。

週刊東洋経済2015年7月18日号

ハワード・デイビス 英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス前学長

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英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス前学長。監査委員会、英国産業連盟、イングランド銀行副総裁、金融サービス機構(FSA)初代理事長などを経る。

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