一緒に作って一緒に食べる!「まち食」の挑戦 「寂しい食卓」への疑問から出発

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木の温もりを感じる「okatteにしおぎ」外観。一軒家の一角を増改築しており、オーナーの住居とシェアハウスが隣接している

「不動産開発の仕事をしていて、それなりにこの仕事を続けていたらいい世の中になるだろうと思っていました。なのに、この業界で作っている“家”に長くいると、なぜ、世の中から置いていかれる感じがするのだろう」

そんな矛盾を感じた齊藤さんは、何か別の角度から仕事をしたいと考え、「NPOコレクティブハウジング社」の活動に参加することに。ここは、多世代の人がかかわり合って住まう暮らし方を提唱する活動をしているNPO。齊藤さんは、18時に会社を出て保育園に子どもを迎えに行き、会合がある日は、子どもをおんぶしてまた電車に乗ってNPOへ行く“二足のわらじ生活”を始め、プロジェクトの事業企画を手掛けていた。ここでの経験や人との出会いが、やがてN9.5の立ち上げへとつながっていく。

N9.5代表取締役のの齊藤志野歩さん。多くの色が重なりあうと「白」に近い色になる。そのような場所でありたいと、マンセル値で白を表す「N9.5」を社名につけた

育休から職場復帰して3年ほど経った頃のこと。東日本大震災で世の中が混乱する中で、携わっていたプロジェクトがいくつか延期になる状況が続いた。

「不動産業は、まちの中でもっと可能性があるのでは」と考えるようになった齊藤さん。NPOの仲間にその話をすると、「まち」「不動産」「暮らし」「食」などについての意見がいろいろな角度から出てきた。「私は不動産がバックグラウンド。建築をずっとやっている人間もいたし、カフェの店主もいた。角度は違っても、中心には同じものがありそう」と感じるようになった。

そこで、2012年春から隔週でメンバーが集まり、意見交換を始める。最初はブレインストーミングのような形で、大きな紙を広げてひたすらみんなのアイデアを書いていった。やがてN9.5のプロジェクトの原型になるものが出てきてそれをブラッシュアップ。2012年12月、NPOの仲間3人とN9.5を立ち上げた。

「阿佐谷もちより食堂」から始まったまち食

新会社では、シェアハウスの企画などを手掛ける一方で、これまで感じていた「子どもと2人だけで採る食事への閉塞感」を、どうにかできないかという思いも続いていた。ご飯を食べるとお腹がいっぱいになって幸せになるはずなのに、寂しさを感じるという矛盾を解消する方法はないのか――。

「こう感じているのは自分だけじゃないはず。まちのいろいろな人が、食卓に集まる仕組みを作りたい」

その思いを地元の商店街の人に話すと、たまたま「空き店舗があるから使いなよ」と言われた。その店舗は、事務所仕様でその場で調理して食べることができなかったため、各々が食べたいものを持ち寄って食べるアイデアを思いつく。そして2013年7月、「阿佐谷もちより食堂」を3カ月限定でスタートさせた。

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