ここでは、お弁当箱を持って商店街に行き、総菜などをテイクアウトして持ち寄るスタイルを取った。普段の買い物というと、スーパーを利用することが多くなりがちだが、もちより食堂に参加すると、米屋で米を買ったり、魚屋で魚を目の前でさばいてもらうことになる。お買い上げにつながるので、商店街の人に喜ばれたのはもちろん、参加者にとっても新鮮な体験だったという。
もちより食堂を開催している中で、新たな縁も生まれる。活動を知った阿佐ヶ谷駅前のビルオーナーが、キッチンスタジオを安く貸してくれると言ってくれたのだ。こうして始まったのが、地域の人と一緒に料理を作り一緒に食べる「阿佐谷おたがいさま食堂」。これまでに25回開催されている。
ここでは細かいルールは特になく、何を作るか決まったら「買い物係」「刻む係」など、それぞれが得意な役割に分かれて作業していく。特別な講師がいるわけでもない。「手順もみんなでアイデアを出しあって決めていく。冒険的に料理をするという感じ」と齊藤さん。買い出しも有志メンバーで商店街に出向き、「今日は天ぷらを作るんだけど、おすすめの食材は?」などと店に聞く。すると「これがいいよ」とカゴに入れてもらえるなど、商店街の人たちとのコミュニケーションが生まれるのが、活動の醍醐味だ。いざ作り始めると、計画とは違うものができあがるのも日常茶飯事。冒険的なエンタメっぽさを楽しむために、毎回30人ほどが集まるという。
見直される「お勝手」「土間」文化
実は、「okatteにしおぎ」オーナーの竹之内さんも「阿佐谷おたがいさま食堂」に参加したひとりだ。おたがいさま食堂に参加したのがきっかけで、自宅の空きスペースを有効利用したいとN9.5に企画を依頼したという。こうして阿佐ヶ谷から西荻窪へと、「まち食」の場が広がっていった。
「プライベートが閉じすぎず、少しずつまちや世の中に連続的につながっていくようなスタイルが、今、求められている気がする」と齊藤さん。かつて日本の住居にあった「お勝手」「土間」は、パブリックとプライベートが地続きになっているような空間だった。顔見知りの近所の人も時には行き交い、たわいのない話をする。「プライベートが閉じすぎる」きらいのある昨今、「お勝手」や「土間」の文化が見直されつつあるのかもしれない。
「阿佐谷おたがいさま食堂」「okatteにしおぎ」の活動は、さまざまな地域の自治体も注目している。「各地でそのような『まち食』の場所ができるのが理想」と齊藤さんは語る。空き家が増え、核家族や一人世帯が多くなった日本で、地域のいろいろな人と一緒に食卓を囲む「まち食」スタイルは、古くて新しい価値を提供している。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら