自由競争できる社会=公平と思う日本が陥る悲劇 競争しなくても目的を達成する手段はある!

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ところが、現実の社会がそうであるにもかかわらず、受験勉強という名の、富裕層に有利な競争が子どもたちの学びの真ん中に置かれる。大学では大企業や証券会社による寄付講座が次々と増え、競争に加わり、勝ち抜くための方法が学生たちに叩きこまれる。

競争に比べ、協力することの意味や価値を学ぶ機会は限られている。だがそれでは、子どもたちは、人間社会の現実の半分しか知らずに大人になってしまう。

共通の目標を達成する学びの方法はいくらでもある

オーリックという教育学者が面白い提案をしている。こんな子ども向けのバレーボールはどうだろう、という提案だ。

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サーブされたボールをレシーブすると、レシーブしたプレーヤーは急いで相手コートに移動する。次に戻ってきたボールをレシーブしたプレーヤーもまた、相手のコートに移動する。こうして両陣営のメンバーがそっくり入れ替わったとき、両チームが勝利者となれる。

競いあうのではなく、協力しあうことで共通の目的に到達する。むろん、私たちは各人が練習にはげみ、サーブやスパイクのレベルをあげていくことができる。努力はスポーツの難易度をあげ、より困難な状況に仲間と協力して立ち向かう力を育む。

スポーツはもちろん、芸術、地域活動、ボランティア、主権者教育など、共通の目標を達成するための学びの方法はいくらでもある。これらをもっと教育に活かしてはどうだろう。

きれいごとを言いたいのではない。人口が減り、高齢化も進み、かつてのような経済成長が難しくなる21世紀は、コミュニティへの依存が強まり、人間が連帯して困難に立ち向かう<温かくて厳しい時代>になる。協力という<人間のもうひとつの本質>への気づきを与える教育こそが、未来を豊かにする原動力となるのだ。

井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授

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いで えいさく / Eisaku Ide

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波新書)、『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年慶應義塾賞を受賞。

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