旭化成が「腎疾患薬1700億円買収」で見出す勝機 医薬品事業は大手不在のニッチ領域に絞り込む

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実は旭化成の積極投資は医薬品だけではない。今年4月には約1800億円を投じてカナダにリチウムイオン電池用湿式セパレーター工場を建設する計画を発表した。稼働は2027年の予定。生産会社にはホンダや日本政策投資銀行からの出資を受け入れるほか、カナダ政府などの補助金も活用する。

湿式セパレーター事業では、昨年10月にアメリカ(ノースカロライナ)、日本(宮崎)、韓国(平澤)に約400億円を投じて製造能力を拡大することを決めたばかり。足元で400億円強ある湿式セパレーターの売上高を2031年時点で1600億円とし、営業利益率は20%以上を見込む。

旭化成がにらむのは、電気自動車(EV)など電動車向けの需要の増加。足元でEV販売は世界的に減速しているものの、中長期ではEVシフトが進むと考える。とくにインフレ抑制法(IRA)によって電池材料の北米生産を求められるアメリカ市場にチャンスを見出す。

過去最大の買収案件では巨額減損

もっとも、思惑どおりにいくかはわからない。旭化成は2015年に2600億円で買収したアメリカのセパレーターメーカー・ポリポア社について、2022年度に約1850億円の減損を計上している。旭化成における過去最大の買収案件がポリポア社だった。

ポリポア社は「乾式」、今回の投資は「湿式」とセパレーターのタイプが異なる。従来、セパレーター事業として乾式と湿式を一体で運営していたが、湿式の拡大を受けて、それぞれ独立事業と位置付けたことでポリポアを減損することとなった。「湿式が有望だから減損を強いられた」といえなくもないが、ポリポアが買収時の計画を下回っていたのは事実だ。

カナダ工場については、北米でのEV普及が進むか、中国製品の流入が少ない状況が続くか、など先行きの不安がある。積極投資が想定どおり収益に貢献するか見通せない。

総合化学メーカーに対する株式市場の評価は低い。6月18日時点で大手5社の株価純資産倍率(PBR)を見ると、レゾナック・ホールディングスのほかは1倍割れ。旭化成も0.76倍しかない。

総合化学メーカー5社のPBR

背景にあるのは石化事業の収益低迷だ。今後のカーボンニュートラル対応への懸念もある。生産能力過剰と言われて久しいエチレンのプラント再編を見てもわかるように、石化事業のリストラは数年単位の時間を要する。

それはそれで取り込むとともに成長事業を育成していく必要がある。各社ともヘルスケアや半導体、電池など成長領域の育成に注力しているが、果敢なリスクテイクでは頭一つ抜けている旭化成。これらの投資が実を結べば、低PBR群から脱却できるはずだ。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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