"未踏の父"竹内氏「優れたエンジニア」に必要な事 登大遊・落合陽一を輩出「未踏IT」統括PMの視点

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━━登さんは別格だとしても、優れたエンジニアには共通した何かがありますか?

千差万別、いろいろな人がいます。「こういうタイプの人に限る」とはなかなか言えないですよ。多種多様でなければ面白くないしね。

ただ、未踏を終えた後に成功している人には、共通する部分がある気がします。彼らはスキルのもう一段階上の、メタスキルを持っている。

━━メタスキル?

スキルを素早く習得する能力というか、スキルを使いこなす能力というか。メタスキルがある人は、それまで使っていたのとは別の言語でも問題なくやれる。別の分野に移っても活躍できる。要するに、自分の持つ技術の活かしどころをいくらでも変えることができます。

自分の持つスキルを俯瞰で見て「ああ、このスキルではもう先がないな。じゃあ次はこっちへ行こう」という判断ができる。これはおそらく、できるエンジニアには不可欠な能力でしょう。

未踏の修了生には、未踏でやったことと全く関係のないことをやって大成功している人も多いんですよ。それはメタスキルを持っていればこそ。そういう人が本物のエンジニアだなと思います。

登くんは確かに特別かもしれないけれど、彼もまたメタスキルを持っている。彼はネットワークのプロフェッショナルですが、未踏の修了後は法律や経済などの文系の勉強もして、スキルを大きく伸ばしました。だからこそ彼の今がある。まさに「鬼に金棒」状態ですよ。

仕事に関係ないプログラム、書いてますか?

━━メタスキルを身につけようと思ったらどうすればいいですか?

簡単に移れるということは、メタスキルというのは要するに基礎力なんですよ。基礎力があるからスキル変更に耐えられる。

基礎力というのは大学生くらいまでに勉強しておかないとなかなか身につかないものですね。30歳になってから「もう一回基礎力を身につけろ」と言ってもなかなか難しい。

━━読者は主に社会人なんですが……。

基礎力というと学校の勉強をしっかりやることのようにも聞こえるけれど、必ずしもそうではないんです。メタスキルを持つ人とは、別の言い方をするなら、目移りしやすい人です。

(写真:桑原美樹)

隣の芝生が青く見えると、すぐにそっちへ行きたくなる人。今はWebのことをやっているけれども、仮想通貨が出てきたら「そっちも面白そうだな」というように。ふっと横道に逸れる。そうやって本業とは別に勉強ができる人のことです。いくらでもテクノロジーの浮気ができる人、とも言えます。

隣の芝生に移るというのは、簡単なようでいて、実は誰にでもできることではない。隣の芝生が綺麗に見えても、「実は酸っぱいんだ」と自分に言い聞かせて手を伸ばそうとしない、イソップ童話のキツネのような人もいる。良さそうに思えても「自分には関係がない」と自己規制してしまう。

いいエンジニアにはそういうところがない。無鉄砲に行けてしまう。そういう人が未踏には多いです。

━━どちらかというと、そういう無鉄砲さが抑制されがちな社会の気もします。

今は管理社会だからね。でも、それでも私は希望を持っていますよ。

これは大昔の話ですけど、未踏が始まる前の1999年。情報処理学会全国大会で、私はコーディネータとして「世紀末討論会」と題した、現場エンジニアとアカデミア研究者の3対3のトークバトルを企画したんです。これが大変盛況で。200人以上入る教室が満員になり、ついには立ち見も出た。

その中で私は会場に来ている人たち、そのほとんどは会社勤めで、普段仕事としてプログラミングをしている人たちを対象に、ちょっとした挙手アンケートを行ったんです。そうしたら、会社ではプログラムを書けない、あるいは書きたくないプログラムを書かされているけれども、自宅に戻ってからは好きな言語で、好きなプログラムを書いている。そう答えた人が驚くほど多かった

ああいう人たちはきっと“浮気”している人たちなんですよ。1999年の時点で、そういう人が私の予想をはるかに超えてたくさんいた。そのことをすごく心強く思ったんです。日本はまだまだいけるぞ、ってね。

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