"未踏の父"竹内氏「優れたエンジニア」に必要な事 登大遊・落合陽一を輩出「未踏IT」統括PMの視点
━━本業とは直接関係なくても、それが本業にも役に立つ?
そう思います。その寄り道は、技術力の養成にものすごく役立っていると思う。
だってそうでしょう。誰にも頼まれなくてもプログラムを書くということは、「こんなことをやってみたい」と思うところから始まって、自分で設計して、実際に手を動かして作ることの全てをやるわけです。「せっかく作ったのだから」とオープンソフトウェアとして公開するとなれば、ドキュメントもマニュアルも自分で書くことになる。
もちろんそんなに大規模なものは簡単にはできないですが、それはゼロから作り上げた、まごうことなきその人の産物です。そうやってゼロからひと通りやってみた経験は絶対に生きるだろうと思います。
そういう意味では、これは学生か社会人かという話ではない。研究室のプロジェクトなどで、まさに駒のようにして「この部分をやれ」と言われてやっているのでは、その人はなかなか育たないわけですからね。
足りないのはビジネススキルか、技術力か
━━2017年にスタートした未踏アドバンスト事業についても伺いたいです。未踏ITで求める人材とはどのような違いがありますか?
25歳未満の優れた人材を発掘し、それを大いに伸ばそうというのが未踏ITです。そこでは多少無鉄砲で荒削りでも、IT人材としての伸びとポテンシャルを重視します。
一方、未踏アドバンストは、日本のIT産業とIT社会基盤の発展・強化につながるような、より成熟したIT人材を育成することを目的としている。年齢は無制限。プロジェクトあたりの予算もかなり大きい。未踏ITより高い事業性や社会実装、国際的なデファクトスタンダードの実現可能性を重視しています。
━━米国にはビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、イーロン・マスクのような、プログラマ出身で社会的に大成功を収め、小学生にも知られている人がいます。ところが日本にはそれがない。アドバンスト事業を立ち上げた背景には、そういう問題意識もあるように思うのですが?
そういう人、出てきてほしいですよね。現状はまだいないので。そもそも日本発で国際的に大ブレイクしたソフトウェアがない。これについては、我々未踏側ももうひと頑張りしないといけないですね。そういう人材を育て、また彼らが成功するような環境を作る必要がある。
━━なぜ日本からそういう人が出てこないのでしょうか。ビジネススキルの問題ですか?
それもあるかもしれないけれど、それだけとは言えないでしょう。むしろ技術力の問題かもしれない。
私は、未踏アドバンストを修了した人に対して「すぐに会社を作ってビジネスをしろ」とは言いません。なぜか。ひょっとしたら将来大きく育つかもしれない芽を潰す可能性があるからです。
未踏アドバンストはあくまで人材育成。プロジェクトは長いと言ってもせいぜい8、9カ月です。それを終えて即起業してお客さま相手のビジネスをしても、大きく成功する可能性はゼロではないが、大きくはない。
慌てて起業すると、端的に言えば、お客さま対応に追われることになります。もともと大人数で始めるわけではないから、トップエンジニアもそこに駆り出されることになる。そうすると技術の厚みを増していくことができない。次のステップを踏めなくなってしまう。あるいはそのスピードが鈍化してしまうんです。
修了して5年は、技術的資産を増やすことに専念した方がいいと考えています。日本からなかなかいいものが育たないのは、日本のビジネス環境がなかなかその猶予を与えてくれないところがあると思います。