法を完無視「アラブ系拡大家族」にドイツ社会震撼 司法介入を拒否、不倫した人間を「私刑」で殺害

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拡大家族は基本的に家父長制です。何かトラブルがあったら、年配者の男性が、彼らの価値観でトラブル解決につながると思われる指示を出します。

例えば拡大家族Aの男性が、拡大家族Bの男性に暴力を振るわれ怪我をしたとします。当然ながらドイツでは暴力を振るった人に対して裁判が行われ、司法がその刑について判断します。

しかし、拡大家族の考え方は、「拡大家族Bのトップである年配者の男性が、暴力を振るわれた拡大家族Aの年配者に既に解決金として、何千ユーロというまとまったお金を支払ったから、この件はもう解決済みである。なぜドイツの司法が介入するのか」というものです。ドイツの司法関係者や警察が頭を抱えているのはまさにこの部分なのです。

その延長線で、裁判で自分に不利な証言をした人に組織ぐるみで近づき、証言を変えさせたり、訴え自体を取り下げさせる、といった事例が発生しています。自分や自分の家族の取り調べをした警察官に対して「君と君の家族がどこに住んでいるか把握している」と発言をしたり、裁判の公判中、拡大家族の一員である被告人の肩を持つために家族が大勢で傍聴席に座り暴言を吐いて裁判を妨害したり、刑を下した裁判官に対して報復をにおわせる発言をしたりと、拡大家族が絡む事件では物騒なことになっているのです。

「多様性を大事にする」というドイツの姿勢が裏目に

ある書籍によると、ブレーメンには約3500人のMiri氏族が住んでいますが、そのうち1800人に対して、売春のあっせん、覚醒剤密入、見かじめ、恐喝、拳銃の不法所持などのため当局による捜査手続きがされているようです。ベルリンではAl-Zein氏族の35.5%が過去に犯罪を犯しており、同じくベルリンのRammo氏族は32%が過去に犯罪を犯しているとも書かれています。

拡大家族はベルリン、ノルトライン・ウエストファーレン州、ニーダーザクセン州など北ドイツの地域に約10万人が住んでいます。全員が犯罪にかかわっているわけではなく、あくまでも一部です。しかし一部といっても、その数が多いため、なかなか捜査が進展しない問題がたびたび指摘されています。

ドイツで犯罪を犯した彼らについて、「国に送り返せばよいではないか」という声があります。しかし、現実はそう簡単ではありません。例えば同じ拡大家族の一員でも、父親はレバノン国籍、息子はドイツ国籍、叔父はトルコ国籍、そしてその従妹は「国籍不明」だということがあります。国籍が不明な人が重い犯罪を犯しても、どこの国に送り返すこともできません。

ドイツはナチス時代への反省から、戦後は一貫して「多様な社会」を目指してきました。皮肉にも、それにより「問題を直視することが遅れてしまった」と専門家は指摘しています。

ドイツでは「犯罪の統計」をとる際、「差別につながるのではないか」という懸念から「民族」に関する記録をしてきませんでした。近年、凶悪犯罪が起きるようになって、ようやく拡大家族による組織的犯罪」が明らかになったのです。そういった中でドイツのメディアも含め「名指しすることで問題を直視しよう」という動きが出てきたものの、「どうしたら問題を解決できるか」について答えはまだありません。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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