駅長たまが愛されるのは当然の理由があった

素朴な三毛猫をスターに変えた和歌山電鐵

では、なぜ、たまはあれほどの人気を得たのだろうか。ここでは、それを考えてみたい。

たまをモデルとした貴志駅の駅舎。社葬の日には全国から大勢の人が訪れた(撮影:松本真由美)

たまが駅長に任命されたのは、2007年1月5日のこと。ネコを駅長にするという発想は、小嶋社長のものだ。駅長にネコを据えるというアイデアは、たまがパイオニアなのである。この点は特筆したい。

まるで和歌山電鐵の後を追いかけるかのように、全国に「動物駅長」が流行し、今もまだ続いているが、先駆者であるという実績、そしてその地位は揺るがない。斬新なアイデアは、最初に思いつき実行した者の勝ちだ。

エンターテインメントに徹した

実際の駅長とは別に、いわば名誉駅長を任命してPRや観光案内にひと役買ってもらおうという試みは、国鉄末期からJR初期にかけての1980年代、いくつかの駅で地元の女性を「観光駅長」としたのが、早い例のうちの一つではないかと思う。「一日駅長」ならば、1952年の鉄道80周年記念行事の際に東京駅長となった内田百閒のように、昔から実例が多い。

ところが観光駅長、一日駅長は鉄道や駅に注目を集めることが主目的であって、本物の駅長の業務を行うわけではない。ならばネコでも務まる。むしろ、動物の方が前例がない分、注目は集まるだろう。ネコに親しみを感じる人は非常に多い。そんな発想が、小嶋社長の脳裏を駆けめぐったのではあるまいか。その慧眼には、敬意を表したい。

そしてそのアイデアを、これ以上ないぐらい真剣に実行したことも、他の類例との差だろう。

「これはしょせん遊びだよ」という姿勢が見え隠れするエンターテイメントは、観客にもその心持ちが伝わってしまい、成功しない。「どこまで真剣に遊べるか」が、成功の絶対条件とすら言える。観客は演者が真剣に遊ぶ様子を目の当たりにして初めて、自らの感情もそのエンターテイメントに移入させ、感動を覚える。この構図は、演劇であれ音楽であれ映画であれ、エンターテイメントであれば同じだ。

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