「若者はかわいそう論」のウソ 海老原嗣生著
人間は、いったん流布するとその情報を盲信してしまう傾向がある。健康食品、ダイエット法、美容法を信仰する人は多いし、血液型性格診断のようなまゆつばを信じている人もいる。
雇用の世界にも、流布している常識がある。本書の帯にその常識が書かれている。「若者の3人に1人は貧しい非正規」「終身雇用と年功序列の崩壊」「ワーキングプアは全労働者の4人に1人」「若者の安月給は“搾取”のせい」「新卒就活で敗れたら、リベンジは一生ムリ」。人事関係者は雇用の専門家と言えるが、その多くは何となく「そうなんだろう」と信じているはずだ。
2013年度新卒採用から採用広報、選考の時期が遅れることになったが、遅らせるべきだという主張の根拠はミスマッチの解消、学業への悪影響をなくすというものだった。
その前提としてこれらの常識がある。著者はこれらの常識を「若者はかわいそう論」と一括し、まったく事実と反する「ウソ」としてコテンパンにたたきのめしている。
著者は09年に『学歴の耐えられない軽さ』、『雇用の常識「本当に見えるウソ」』を書き、これらは検証された常識ではなく、根拠がない「風説」と主張した。その筆は鋭かったが、いまだに風説は流布し続けている。そこで集大成版『「若者はかわいそう論」のウソ』を手に取りやすい新書版で刊行した。
本書は5章立て。タイトルを紹介すると、第1章は「若者かわいそう論のベストセラーを論駁する」、第2章「流布された怪しいデータを検証する」、第3章「対談・教育と雇用の現場から」、第4章「問題の本丸は何か?」、最終章「錯綜した社会問題に解を!」である。第3章と最終章は対談だ。
たぶん多くの読者は第1章の印象が強いだろう。『ワーキングプア』『仕事のなかの曖昧な不安』『若者はなぜ3年で辞めるのか?』というベストセラーの中身を批判的に検証している。出版業界で他人の本を名指しで批判することは珍しい。しかも海老原氏は各著者の主張に反論するのではなく、主張の根拠になったデータが間違っていると指摘している。