自然エネルギー財団と中国の関係で、疑われているポイントは2つ。
まず、2016年から2019年ごろにかけて、国際的非営利組織GEIDCO(Global Energy Interconnection Development and Cooperation Organization)で、自然エネルギー財団と中国国家電網が交流していたことがあげられる。GEIDCOの会長に中国国家電網会長の劉振亜氏、副会長に元アメリカエネルギー庁長官のスティーブン・チュー氏とともに自然エネルギー財団設立者・会長の孫正義氏が就任した。GEIDCOとは、どんな組織なのか。
「GEIDCOは、自然エネルギー活用のための世界的な送電ネットワークの実現を目指す非営利団体です。送電網建設の世界的企業であるシーメンス、ABB、日立、GEや、世界的な金融機関グループのモルガン・スタンレー、総合コンサルティング会社アクセンチュアなども参加しており、当財団も加わりました。中国国家電網とのかかわりは、もっぱらGEIDCOを通してのものです。人的にも資金的にも当財団とは関係ありません。たとえば、今回、3人の公認会計士に財団設立以来の収入について、すべての銀行預金通帳等の関連資料を調べてもらい、中国政府・企業からのものは含まれていないことが確認されました。ロゴ混入問題が起きた後、当財団はGEIDCOを脱退しました」(大林氏)
中国問題に警鐘を鳴らしてきた
もう一つが、GEIDCOの設立目的でもある国際間の送電網構想の立案と中国とのかかわりだ。自然エネルギー財団は2011年の設立以来、「アジア国際送電網(アジアスーパーグリッド・ASG)」構想を提唱してきた。このASGが中国国家電網を利するための構想なのではないか、という疑いだ。
「ASGは、東日本大震災後の日本の電力問題の解決策として提案したスーパーグリッド(直流高圧送電網)構築に向けた構想の一つで、ジャパンスーパーグリッド構想、東アジアスーパーグリッド構想に続く第3フェーズとして提案しました。中国国家電網とは無関係です。あくまで日本のエネルギー確保、価格低減が大前提であり、2012年の当財団のイベントでは、ASGのセッションに日本のエネルギー問題の専門家、有識者にご登壇いただいています。2019年に研究の報告書を公表し、ASGの調査を終えました。ただ、その後の国際情勢の変化で構想を進めていくのは現実的に難しくなり、いまだ構想の域は出ていません」(大林氏)
自然エネルギー財団はむしろ、中国による再エネ分野での独占や人権問題に警鐘を鳴らしてきた。
「中国は、太陽光発電設備の世界シェアの8割近く、蓄電池を構成するセルでは世界シェアの7割以上を独占しています。日本は両方とも1%前後にとどまっています。こうした中国依存は危険です。その問題性を『エネルギー安全保障の現実』というレポートで指摘してきました。中国政府のふるまいは外交面をはじめ重大な懸念を生じさせますし、ウイグルの少数民族に対する強制労働が太陽光パネルの生産にも及んでいることなどは容認しがたい、とレポートで指摘しています」(同)
一部メディアやネットの書き込みには、元経済産業省の官僚で政策シンクタンク代表を務める原英史氏も疑問を呈す。原氏は月刊『正論』6月号の「機能不全と劣化の政策決定システム」という論考の中で、自然エネルギー財団と大林氏の身に起きた騒動に触れている。
外国勢力の工作資料ではないかという声について原氏は「わざわざロゴをつけて工作活動を行う工作員がいるのか。もしいたら、よほどの間抜けだ」と一蹴。4月8日付で自然エネルギー財団が中国政府・企業との交流がごく限定的であったとする報告書を公表して以降も「影響力行使が疑われる」というのであれば、「少なくともそう主張する側は根拠を示す必要がある」と唱える。さらに、今回の騒動の背後で垣間見えるのは「河野政権の発足だけは何とか阻止したい電力業界の影だ」とも指摘する。
原氏は原発賛成派で、大林氏とは政策的な立場を異にするが、今回のような騒動で政策決定システムが劣化していくことに警鐘を鳴らした格好だ。
ロゴ混入問題について政府の調査が終結するメドは見えない。自然エネルギー財団が蚊帳の外に置かれたまま、新たなエネルギー基本計画の議論が進んでいくのだろうか。
自然エネルギー財団は、脱炭素化の方向で具体的提言をしている有力シンクタンクだ。日本のNGO(非営利組織)で、自前で電力シミュレーションをして公表できる組織はそう多くない。エネルギー基本計画の議論に、その知見は不可欠なのではないか。
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