売りに出た「湘南モノレール」が進む道とは? 三菱グループを抜け、みちのりHDの傘下に

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乗車率アップの方策の1つが、バリアフリーの充実による高齢者の利用増だ。モノレールは高い場所を走るため、ホームも高い場所にある。にもかかわらず、湘南モノレールにはエレベーターがなく階段の上り下りを余儀なくされる駅が多い。「バリアフリー化を進めて、高齢者を含めた沿線住民の利用を増やしていきたい」(松本氏)。

さらに、松本氏には秘策がある。平日の昼間と休日という、比較的利用者の少ない時間帯に観光客を取り込んでいく戦略だ。

湘南エリアを走る観光列車としては、鎌倉と藤沢を結ぶ江ノ島電鉄があまりにも有名。江ノ電も沿線住民の生活路線であるが、沿線には江の島、鎌倉大仏など観光スポットが数多くある。近年では、漫画『スラムダンク』の舞台となった鎌倉高校前が台湾人観光客の間で大人気スポットとなっている。

一方、湘南モノレールの沿線に観光名所は少ない。だが一度乗ってみれば、車窓には目を見張るものがある。わずか14分の乗車時間のうちに、風景は目まぐるしく変わる。木々の間を抜け、トンネルの中に突っ込み、猛スピードで住宅街や商店街の真上を駆け抜ける。「カーブが多く、ジェットコースターのような乗り心地は、ほかでは味わえない」(松本氏)。

小さい電車がゆったりと走る江ノ電とは、あまりにも対照的だ。往路は鎌倉から江ノ電で、復路は湘南モノレールで湘南江の島から大船へ。両者を組み合わせた乗車体験は、鉄道ファンならずとも心が躍る。

鎌倉を中心とした湘南エリアは、恒常的な交通渋滞に悩まされている。そこへ、2020年の東京オリンピックではセーリング種目が江の島で開催される。湘南エリアの交通基盤の強化は喫緊の課題。江の島へのアクセス手段として湘南モノレールがあらためて注目されることは間違いない。

グループ間でのシナジーが徐々に

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岩手県北バスが導入した「貨客混載バス」

6月3日には、みちのりHD傘下の岩手県北バスがヤマト運輸と組んで、路線バスで宅急便を輸送する「貨客混載」を始めると発表した。路線バスの空きスペースで荷物を輸送することで沿線の生産性が向上する一方、ヤマト運輸としてもトラック輸送の一部を路線バスが担えば効率化につながる。

導入のきっかけについて、松本氏は「昨年、グループ傘下の福島交通が農家に頼まれて、路線バスの座席に農産物を積んで近くの鉄道駅まで走った。そのときに本格的な貨物混載の可能性があるのではないかと考えた」と語る。グループに複数の交通事業者を抱えることによるシナジーが、少しずつ発現してきた。

知恵を絞って、交通網をより良くする余地はいくらでもある。みちのりHDの下で再スタートを切る湘南モノレールが、どのように変わっていくか。全国の地域交通網の再生という観点からも重要な一歩となる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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