「覇気のない」演説から見えるプーチンの焦り ウクライナは逆に夏の反攻作戦準備に注力へ

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一時は完全にスターリングラードを包囲したドイツ軍だったが、その後ソ連軍に逆に包囲された。ドイツ軍の現地司令官は「包囲打開は無理」と撤退を図ったが、ヒトラーが死守を命じたため、抗戦を続けた。

その挙句、現地司令官がヒトラーの命令に反して降伏した。この戦いを契機に大戦の戦局がソ連軍優位に転換した。つまり軍事作戦面で素人であるヒトラーの命令を順守しようとして、結果的に無残な敗北を喫したドイツ軍の行動に今のロシア軍の攻勢が似てきているという指摘だ。

ウクライナの「引き」の戦術が奏功

ロシア軍の攻勢がなかなか結果につながらないもう一つの要因は、ウクライナ軍の意図的で自発的な撤退戦略だ。弾薬がロシア軍に比べ大幅に不足している現状の中で、シルスキー軍総司令官が採用している守りの戦略のことだ。

撤退することでロシア軍との激戦をできるだけ回避し、自軍の主力兵力を温存する一方で、ロシア軍の戦線を間延びさせて兵力を消耗させ、補給上の負担も重くさせる作戦だ。

ウクライナ軍事筋は「これまで東部でウクライナ軍はロシア軍の攻勢に対し、守りに徹しているが、守備ラインは一度も完全に崩されたことはない」と強調する。

この戦略はいわば、戦力が整うまで攻撃用兵力を温存する「時間稼ぎ」である。そのウクライナ軍が6月から8月の間にロシア軍への反攻作戦を再開すべく準備を密かに開始している。

この準備の動きを象徴するのは、2024年5月9日にゼレンスキー大統領が突然発表した特殊作戦軍のルパンチュク司令官の解任だ。ルパンチュク氏は2023年11月に司令官に就いたばかりだった。

解任人事の背景にあるのは、2023年秋に始まったドニプル河右岸でのウクライナ軍の渡河作戦の停滞だ。作戦を担当していたのが特殊作戦軍だった。

ロシア軍の激しい抵抗を受けてウクライナ軍の橋頭堡が広がらないため、業を煮やした大統領が司令官の交代に踏み切ったと筆者はみる。近く橋頭保を拡大する攻撃を始める計画だろう。

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