「下方修正ラッシュ」抜け出せぬアステラスの焦り 強気目標を対外発信し続ける姿勢に疑問の声

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アステラスではほかにも、大型化を期待していた薬があった。2023年5月にアメリカで承認を取得し、販売が始まった更年期障害薬の「ベオーザ」だ。

女性の社会進出に伴って更年期障害を治療する機運が高まっていることや、副作用が問題視されてきた既存薬と異なる作用方法を持つことから、アステラスは当初、ベオーザのピーク時の年間売上高は最大5000億円に上ると見積もった。1年前に東洋経済が実施したインタビューで、岡村CEOは「爆発的に普及する可能性がある薬だ。ある意味、そうでなければ私は成功と見なさない」とも語っていた。

しかしそのもくろみは、発売から1年足らずで大きく外れることとなった。2024年3月期の売上高は、約490億円の目標に対して、結果は73億円どまり。これを受け、今回の決算発表と併せてピーク時売上高の予想を2500億円へと大きく下方修正するに至った。

別の大型薬候補だった腎性貧血薬「エベレンゾ」も、競争環境の激化により、2023年3月期と2024年3月期に計約630億円の減損損失を計上している。ある製薬企業幹部は「イクスタンジの特許切れを控えた焦りから、次世代ドライバーの売り上げを大きく見積もってしまったのだろう」と推察する。

今期から業績予想の立て方を見直し

アステラスは後継薬候補を確保すべく、前述のアイザーヴェイを開発するベンチャー以外にも、積極的なM&Aや提携を続けてきた。2020年には、約3200億円を投じて遺伝子治療薬の開発企業を買収。しかし、その際に計上した無形資産などの減損も、この数年の下方修正の原因となってきた。

2024年3月期決算では、開発中の遺伝子治療薬に関する無形資産の減損を約400億円計上したことも響いた。遺伝子治療薬では複数の開発品目があるが、開発の中断や遅延を受けて、2021年3月期と2022年3月期には計約900億円の減損を計上している。

度重なる下方修正を受け、アステラスは今2025年3月期決算から、業績予想の立て方を大きく見直したという。

決算説明会で岡村CEOは、「さまざまなシナリオ分析を行い、リスクと機会を勘案して、意欲的でありながら達成可能性にも従来以上に配慮した、よりバランスのとれた計画を策定した」と説明した。

2025年3月期は、売上高1兆6500億円(前年同期比2.8%増)、営業利益は480億円(同88.2%増)と増収増益の予想だ。ここには無形資産の減損リスクまで織り込み済みだという。一般的には、減損の兆候が見られた際に計画に織り込むものだが、同社は現時点で減損の兆候はないとしている。

1年前に就任した岡村CEOは、イクスタンジ以外の開発品の成長や、コア営業利益率30%以上といった目標を掲げた2025年3月期までの中期経営計画の策定に、当時CFO(最高財務責任者)として携わっていた。その中計での成果目標についても、「達成は難しい」との認識を示した。

強気の予想を掲げることは、はたして効果があったのか。次の中計策定時には、検証が必要だろう。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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