家づくりの基本は間取りではなく場取り--『「おひとりさま」の家づくり』を書いた天野 彰氏(建築家)に聞く
いちばん多い男性のケースは、妻のしがらみの中で余生を送る「結果としてのおひとりさま」。それでも中には妻の残影に埋もれて生活するのでなく、家も一気に建て直す人もいる。そうすれば、自分の新たな人生を築ける。これもおひとりさまの生き方の一つ。見かけも発言も20歳ぐらい若返ったケースさえある。
──新立地なら商店街を薦めています。
まさに実用的。年を取ると足腰が弱くなる。駅に近いほうがいい。自動車の運転も、これだけ高齢者が事故を起こすようになると、70歳以上は免許停止ということになるかもしれない。もともと商店街には不動産の出物がけっこうある。女性の場合は夜中にタクシーに乗車することを嫌がる向きも多いが、そういうこともしなくて済む。
──間取りではなく場取りで、家を考えよとしています。
多くの依頼主は、ここはリビングルーム、こちらは和室8畳、キッチンはここという具合に方眼紙に書いて、こういう感じにしたいと持ってくる。これは、とんでもない間違い。部屋の配置のパズルに自分たちの生活を押し込むことになる。3LDKだ、2LDKだといった家が普通だが、これではせっかくの自分たちの家をお仕着せで済まそうとしていることになる。
こういう考え方はご破算にして、自分は何をやりたいかで家の設計に入っていく。まずは書斎が欲しい、ゆったりした風呂が欲しいでもいい。風呂場を大きくし、鏡も大きなものをはめ込むと、女性はきれいになるとアドバイスしている。男性なら書斎を造ると、勉強するようになり、賢くなると。何LDKといった固定観念は消し去って、間取りではなくて場で描いていく。間取りの間は部屋のこと、あえて場取り、つまりスペース取りにする。それでできたものを設計士に渡すといい。