そこで、ここであらためて企業とは何かを考えてみたいと思います。
といっても、けっして難しい理屈を説くつもりはありません。資本主義であれば世界中のどんな経済や経営、あるいは会社法の教科書にも書いてある、ごく一般的な原理原則を確認するだけです。
最初に大原則をいえば、株式会社の目的は株主の利益の最大化です。それ以上でも以下でもありません。
ところが日本では、「公益資本主義」もしくは「ステークホルダー経営」を信奉する経営者が少なくありません。要は、株主より株主以外のステークホルダーを重要視するということです。
ちなみに、岸田文雄総理も就任当初は「新しい資本主義」と称して「ステークホルダー経営」的な考えを表明しておられましたが、各方面から批判されたのか、いつの間にか立ち消えとなったようです。
経営者の「従業員が大事」はおかしい
経営者の中には、上場企業であっても「まず従業員が大事」と公言される方が少なからずいます。ここには雇用を守るとか、株主の理不尽な要求には屈しないといった意味が込められているのでしょう。
一見するとたいへん美しく、頼もしいようにも感じますが、少し冷静に考えていただきたいと思います。
従業員であれ、顧客であれ取引先であれ、企業との間には企業が債務を履行する義務を負う契約関係が存在します。
労働の対価として給料を支払ったり、財やサービスの授受を通じて代金のやりとりをしたりしているわけです。仮に経営が赤字になっても、ただちに支払いが止まることはないでしょう。
一方、株主と企業の間にこうした契約関係はありません。
株を買っても、会社が利益を出して株価が上がらなければ報われません。利益がなければ配当も期待できません。逆に株価が下がって損が出ても、当然ながら自己責任です。そういうリスクを背負うからこそ、会社法では株主総会での議決権のみならず、株主にある程度の特別な権利を認めているのだと思います。
そもそも株式会社は、こういうリスクマネーを集めて資本とすることで初めて成り立ちます。上場企業であれば、なおさら不特定多数から株主を募ることになります。
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