イスラエルが「大規模な報復」をしにくい理由 中東情勢について専門家2人緊急インタビュー

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――イラン本国以外にも、親イラン勢力という脅威があります。

錦田愛子(にしきだ・あいこ)/1977年生まれ。東京大学法学部卒業、同法学政治学研究科修士課程修了、総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了、博士(文学)。早稲田大学イスラーム地域研究機構研究助手、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授などを経て慶応大学法学部教授。著書に『ディアスポラのパレスチナ人「故郷」とナショナル・アイデンティティ』など(写真:本人提供)

錦田愛子(以下、錦田) イランから支援を受けるレバノンのヒズボラとイスラエルは、ガザでの戦闘後、断続的に戦闘を続けている。まだ本格的なものではないが、今後拡大の可能性がある。

イスラエルとヒズボラとの間では、2006年に大規模な戦闘が起こり、ヒズボラのロケット弾はイスラエル北部のハイファにまで届いている。それだけの兵力があるということで、イスラエルには脅威となる。だが、お互いに地上軍の侵攻にまでは発展しないのではないか。

立山 イスラエルが恐れているのは、ヒズボラが姿勢を変更し、大規模なミサイル攻撃などを行うことだ。

ヒズボラは先日の300発とは比にならない量のミサイルを持っていると言われている。イスラエルとしては、隣国のレバノンから一気に攻撃を受ければ迎撃する暇もなく、イスラエル北部が壊滅する可能性もある。イランを本当に窮地に立たせると、そうした報復のリスクも高まる。

イスラエル右派は報復攻撃を主張

――イランの攻撃による、イスラエル国内の状況を教えて下さい。

錦田 10月7日の攻撃以降、イスラエルの注目はガザの武装勢力や、ヒズボラ、フーシ派などの武装組織に集まりがちだったが、あらためてイランに対する脅威認識が強まったといえる。

ベン・グヴィール(国家安全保障大臣)やスモトリッチ(財務大臣)をはじめ、イスラエルの右派勢力はイランへの本格的な報復攻撃を主張しており、ネタニヤフ首相らとは意見が対立している。

4月16日には通常の戦時内閣に加えて野党党首のヤイール・ラピッド(中道政党イェシュ・アティッド党首)やアビグドール・リーバーマン(極右政党「イスラエル我が家」党首)も招集した戦略会議を開くとの情報もある。

ネタニヤフ首相としては通常内閣を構成する右派よりも、与野党の枠を超えたこれら有力政治家との間で意見交換を進め、今後の方針を決めるものとみられる。

――アメリカは、イスラエルの報復に参加しないとしています。

錦田 アメリカはイランとの間での交戦は避けたいと考えており、今回の報復への不支持は、イスラエル・イラン間の対立に自国が巻き込まれることを避けようとするものだろう。

とはいえ、安全保障面でのイスラエルに対する協力については、今後も継続するものと思われる。

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