就職氷河期の閉塞感は、市場競争に対する支持を失うという意味で非常に大きな問題点をはらんでいる--大竹文雄・大阪大学教授

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しかし、働いている若者から中堅までの50歳未満の年齢層は機会の平等が満たされていないと思っています。

アメリカ人も年齢階級の動きとしてはかなり似ていますが、レベルが大きく異なります。アメリカンドリームを信じている人たちは日本より、はるかに高いレベルで存在するということです。

このように、日本では所得格差が自分の認識と違って拡大し、あるべき所得格差の姿とのギャップがあること、そして将来にわたって豊かになれるチャンスそのものも減ってきたと思うようになったことで、格差騒動につながっていったのでしょう。

就職氷河期の話になりますが、非正社員として就職した人が、正社員になかなかなりにくい。特に日本の場合、高卒の人はだいたい10年経てば最初の就職が正社員か非正社員なのかは関係なくなりますが、大卒の人は最初に非正社員で就職した場合、10年を超えてもそのまま影響をもたらしてしまうというのが最近の私たちの研究です。

私たちの研究を受け、いくつかの日本の労働経済学者の研究でも明らかになっています。昔は、特に男性で大卒の場合は正社員になるのが当たり前でした。今は、男性であっても非正社員は10%を超えています。大卒に限ると少し減ると思いますが、それでもかなりの比率で存在するようになっています。

90年代前半までは、働いている男性の中で非正社員は3%ぐらいでした。今は、若年層だと大卒・高卒を合わせて10%を超えています。その中で、所得格差のギャップや機会の不平等に対する認識が広まってくることは、仕方がないかとは思っています。

就職氷河期で、非正社員として長く働いている人が出てきたことで、流動性がなくなり閉塞感が生まれてきたこと。そして、努力ではなくて運・不運で生涯が決まってしまうという価値観というのをもたらしてきたのです。

就職氷河期の閉塞感は、単にこのような価値観をもたらすだけではなく、市場競争に対する支持を失ってしまうという意味で、非常に大きな問題点をはらんでいます。

どの国でも、不況は若い人たちにシワ寄せが行きますが、特に日本の労働市場において正社員と非正社員が分かれているところは、その影響が長期間続きやすい。そして若い人たちの価値観に大きな影響を与えてしまいます。

将来、グローバル化が進み新興国との競争が激しくなっていく中で、競争に対する拒否感を持った人たちが増えてしまう。さらに市場主義そのものを信頼しなくなるという悪循環が生まれるという問題点があると思っています。

彼らの価値観を変えるためにも、若い人たちの就職の場をどう拡大していくかが大事だと思っています。

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