川勝知事で話題「細川ガラシャ」壮絶な辞世の句 辞任の心情を問われて引用し、注目が集まる

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いうまでもなく、まったくの事実無根だが、忠興は不安でならなかった。

玉と再び暮らせる日を夢見て極限状態のなか戦っていた忠興は、ようやく取り戻した妻に異常な執着を見せるようになっていたのである。

「まるで鬼……」

嫉妬に狂った忠興により、場所は違えど、またもや幽閉生活を送らされることになった玉。もはや精神的な疲労も限界に来ていた。

「どうして私はこんな目ばかりに遭うのだろう」

そうため息をつくと、長男の忠隆が不思議そうにこっちを見ている。幽閉中に生まれた興秋も、もうずいぶんと大きくなった。

私はこの子たちのために細川家を守る。もっと強く、もっとしなやかにならないと。

石田三成軍に囲まれて壮絶な最期を

玉は忠興が戦に出かけると、こっそりと侍女を従えて出かけるようになった。行き先は教会である。

「主よ……」

玉がキリスト教に傾倒したのは、侍女のイトがきっかけだった。忠興と結婚して以来、イトは玉に仕えてくれている。いつもイトが祈り捧げているのを見て、玉も救い主に近づきたいという思いが日増しに強くなっていく。

ある日、ついにイトを通じて洗礼を受けた玉。これから人生をともにする、新たな名を与えられた。

「ガラシャ……」

ガラシャとは、ラテン語では「神の恵み」という意味を持つ。神に誓って、私は自分の役割をまっとうしてみせる――。

ガラシャが閉ざされた生活のなかで、そんな決意を固めているうちに、時代はまためぐる。慶長3(1598)年8月18日、秀吉が病死。豊臣家を支える重臣として台頭したのは、石田三成と徳川家康である。

忠興は家康側につき、長男の忠隆と次男の興秋を連れて出陣した。その隙を三成は見逃さなかった。ガラシャを人質としてとらえることで、細川家を西軍に引き入れようとしたのである。

「奥方様! 三成の軍勢が押し寄せてきて、屋敷が包囲されています!」

侍女たちが慌てふためくなか、玉は落ち着き払って言った。

「わかりました。マリア、みなを連れて、屋敷を出なさい。三成とて人質を粗末に扱いはしないでしょう」

マリアとは、イトの洗礼名である。イトには随分と助けられたと、玉は改めて感謝のまなざしを送った。

「しかし、奥方様を置いてはいけません」

玉はかぶりを振ると、みなを真っ直ぐみてほほ笑んだ。

「私は細川忠興の妻です。最期は私に見届けさせてください」

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