東京製綱、強気投資の勝算、太陽電池向けワイヤで急成長
今回のアジア展開には、ATRでの教訓も生かしている。生産設備はレイアウトまで北上モデルを移管。現地労働者にも北上での研修を徹底させた。新設したマレーシア工場から昨年夏、20人ほどが来日し、2カ月間働いた。「北上で教えられるものは教え、9~10月に今度はうちの現場の専門家が現地に行って指導した。今は4週間単位で現場の中堅クラス数人がメンバーを替えながら行っている」(帯向敏春・北上工場長)。ソーワイヤの管理項目は多く、伝授する必要があるためだ。「リスク管理力もついてきた」(猪瀬迪夫社長)。
「中国は苦労すると思ったが、順調」と評価するのは、いちよし経済研究所の大澤充周主任研究員。カネの回収や価格の要求の厳しさ、模造品なども懸念されたが、今や稼ぎ頭に成長している。
シリコンインゴットは一つ20万~30万円するが、切断の作業途中で断線すればすべてがダメになる。ワイヤをケチるのは賢明とはいえないことから、中国でも東京製綱の高品質ソーワイヤが選ばれているようだ。
東日本大震災では北上も一部設備が損壊。それでも需給の逼迫するソーワイヤの出荷は最優先で行った。必要箇所の修繕を急ぎ、在庫や仕掛かり品を使い、3月18日にソーワイヤ、3月23日にはタイヤコードの生産を再開させている。また釜石製鉄所から線材が届かない間は、新日鉄の君津や室蘭から線材を調達したが、4月13日には正常化している。
一方、ウエハを切る機械がワイヤソー。製造する北上機械製作所は、ワイヤ工場の数ブロック先にある。このワイヤソーでも昨年、中国に進出を果たし、ソーワイヤ工場のある常州で生産を始めている。「装置は売りっぱなしにできず、メンテナンスが必要」(町島健二・北上製作所長)だからだ。こちらも現地の労働者が北上で研修を受け、また、技術者も1カ月単位で指導に行った。世界で唯一、両製品を手掛ける強みを生かし、今後の展開に期待がかかる。
需要が急拡大中の太陽電池 利益率高いソーワイヤ
太陽電池市場は急速に盛り上がっている。ドイツ、イタリアなどに続き、日米、中国で拡大中だ。ただし「太陽光発電は政策次第で動く」(物江陽子・大和総研研究員)面は否めない。カギは固定価格買い取り制度(FIT)だ。
買い取り価格次第で普及スピードは大きく変化する。スペインではFITの上限を引き上げた08年に急拡大したが、翌年の上限引き下げで一気にしぼんだ。ドイツでもFIT導入で普及が進んだが、儲けすぎ批判も出て、価格を引き下げている。しかし、その反動減も限定的なようだ。「再生可能エネルギーの柱である風力は、風況のよい地域にはすでに設置済みで、後はコストの高い洋上しかない。脱原発の動きもポジティブで太陽光へのシフトが進む」(物江氏)。米国でも積極策を採るカリフォルニア州中心に伸びている。日本や中国も政策次第で大きく増えそうだ。