Netflix「三体」見た人が裏切られたと感じるワケ 原作ファンも「ゲースロファン」も黙ってない

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「(改変は)重要な話題」と、リアムは前置きしたうえで「小説とドラマは切り離して考えたほうがいいとも思っています。どうしてかというと、演じるとは、登場人物に命を吹き込むことであって、本を読んだときに描いた想像を超えていかなければならないからです」と続け、改変に対する1つの答えを導き出していました。

「オックスフォード・ファイブ」の狙い

リアム・カニンガム
全世界配信日に合わせてロンドン現地で行われた前夜祭イベントと取材会に参加したリアム・カニンガム(写真:Netflix)

真摯に答えたリアムの言葉に納得する一方で、どうしても気になるのが随分とキャッチー過ぎる「オックスフォード・ファイブ」というネーミングです。エイザ・ゴンザレスやジョン・ブラッドリーら5人の仲良しグループをそう呼んでいます。オックスフォードで共に学んだ同級生という設定です。原作の主要な登場人物を集約させる狙いがあるのでしょうが、捻りのない設定のように感じます。エログロを強めたゲースロクリエイターが今度は青春テイストを強めたといったところでしょうか。

ロンドンで行われた取材会では、ショーランナーと呼ばれる製作責任者であるデヴィッド・ベニオフとダニエル・ブレット・ワイス、アレクサンダー・ウーの3人にも話を聞くことができました。デヴィッドとダニエルは「ゲースロ」のクリエイターメンバーで、アレクサンダーはヴァンパイアシリーズの「トゥルーブラッド」を代表作に持ちます。今回、この作品のために人気クリエイターの3人がタッグを組み、手掛けています。

Netflix版独自設定の「オックスフォード・ファイブ」のメンバーたち
「オックスフォード・ファイブ」はNetflix版独自設定だ。オックスフォード大学で共に学んだ仲良しグループが恋人を交えて集まった時のワンシーン(写真:Netflix)

「オックスフォード・ファイブ」の狙いは想像通りの答え。要約すると、「キャラ立ち」させるためでした。ただし、新たに作り出したキャラクターはクリエイターとしてこだわりを持ったものでした。

「世界のさまざまな地域の視点をキャラクターに表したかった。さまざまな地域の出身者たちがどのようにして1つになるのか、あるいはどうして1つになれないのか、こうした現象は現実世界でも起こっていることです。何かに直面したときにこそ顕著に表れます。もし、私たちが本当にエイリアンに攻撃されるとしたら、地球全体で立ち向かわなければならないしね」。原作を解釈したうえで、3人が共に行き着いた答えがこれということです。

超未来的なVRヘッドマウントディスプレーを被り、VRゲーム「三体」の世界に入る
超未来的なVRヘッドマウントディスプレーを被り、VRゲーム「三体」の世界に入る(写真:Netflix)

人気原作を人気クリエイターが作る理屈以上の作品になっているか確かめる価値があるとしたら、映像表現にあります。なかでも、超未来的なVRヘッドマウントディスプレーを被ってログインなしで中国の殷王朝やイギリスのチューダー朝のVRゲームの世界に入るシーンは必見です。原作を知っても知らずとも、ゲースロファンであろうとなかろうと、理屈抜きに見たことのないような新しさを感じるはず。こうした攻めがもっとあってほしかったと思うなか、結局はどの角度からも評論してしまう。そんな作品なのかもしれません。

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長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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