5月1日、大型連休の最中だった。朝から雨で、メイは父親と自宅にいた。昼ごろ、正三さんがお茶を飲もうとペットボトルを手にしたのだが、なかなかふたを開けられない。メイが「なにしてんのよ」と笑って、代わりに開けた。
正三さんはそのまま横になって眠った。しばらくたって目を覚まし、起き上がろうとするが、うまく体を起こせずにじたばたしている。
「え? なに?」。驚いたメイが助け起こそうとしたが、重くて支えきれない。正三さんが焦り出し、ただならぬ事態が起きていることにメイも気付いた。
とっさにスマホを手に取り、電話をかけた先は教室スタッフのキムさんだった。呼び出し音は鳴るが、つながらない。続けてウカイさんの電話を鳴らした。
教室の女性スタッフとして6年近くメイとの付き合いがあったウカイさんは、「お父さんが倒れて、動けなくなった」と聞き、すぐに状況を察した。
「救急車よびなさい」と促すと、メイの家へ駆けつけた。着いたのは救急車とほぼ同時。父娘と一緒に救急車に乗り込み、病院へ向かった。不在着信を見て電話を折り返してきたキムさんも、間もなく病院に駆けつけた。
父は一命をとりとめたが…
検査の結果は脳出血。すぐに緊急手術を受けることになった。
看護師から「お父さんに何か言葉をかけてあげて」と言われたメイだが、頭が真っ白で言葉が出ない。「がんばれ」と一言しぼり出すのがやっとだった。
夜の病院の廊下で4時間あまり、開頭手術が終わるのを待った。キムさん、ウカイさんとは、高校生活や進路の話をした。不安を紛らわせてくれているんだな、とメイは感じていた。
手術が終わり、医師に呼ばれて説明を聞いた。正三さんが一命をとりとめたことを知らされ、メイはひとまず胸をなで下ろした。
しかし、続く話から、正三さんの身体に脳出血の後遺症があることがわかった。正三さんは長期入院を余儀なくされた。
父子家庭に育ったメイには頼れる親族もおらず、1人で生活しなければならなくなる。
入院の手続きはキムさんとウカイさんが手伝った。メイは正三さんの着替えを取りに戻り、慌ただしい時間を過ごした。それが一段落すると、1人で家に帰った。
そして翌日は、1人きりで家にいた。少し落ち着いて先のことを考えると、不安で胸が押しつぶされそうだった。
「このままやと、やばい」
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