民主主義幻想が消えた「西洋」が没落する歴史的理由 『西洋の没落』の著者、エマヌエル・トッドの議論

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トッドは、このような状態のことをロシアでは、「マクロン化」(Macroner)という新しい動詞として使われているのだと、紹介している。つまり、「何かしゃべりまくっているが、なにも語っていない」という意味だ。

とりわけ西欧社会を危機に陥れているのは、ロシアや中国が強くなったことではなく、西欧社会の大国アメリカの劣化だという。それはウクライナ戦争報道においても現実を直視せず、希望的観測の報道に終始したニヒリズム的態度に現れているという。

その劣化は、アメリカ人の平均寿命が下がっていることにも現れている。2014年の77.3歳から、2020年の76.3歳に減少しているのだ。自殺、アルコール、戦争などの原因があるにしろ、1人当たりの所得7万5000ドルの国とは思えない水準である。

もちろんGNPなどというものは、ドル計算によるバブル計算にしかすぎない。金融サービスと産業が同じ金額だとしても、それが経済に与える意味はまったく違う。西欧社会は、日本とドイツを除いて産業の割合が低く、それに比べて非西欧ではその率がとても高い。実質的な豊かさを実現できていない、ドルだけもっているバブル社会だともいえる。

オリガーキー民主社会vs権威主義的民主社会

こうした現状の中で、トランプなどの右翼政権があちこちで生まれているのはなぜかという深刻な問題もある。まさにエリートの思考と大衆とのねじれ構造がそこにあるのだが、西欧社会の一般民衆がデモクラシーからネグレクトされていることにも原因がある。

政治家も一流大学を出るエリートも、今や一部のものに限られるようになり、ジャーナリズムも法律も大衆にとって不都合な物になってくる中で、大衆は絶望感に陥っているともいえる。

そして、与えられるメディア情報も事実と真逆の都合のいい情報ばかりと来ている。そうした中で大衆は、エリートが「盲目」であるのと同じく、盲目の状態に追いやられている。

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