民主主義幻想が消えた「西洋」が没落する歴史的理由 『西洋の没落』の著者、エマヌエル・トッドの議論

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では現状はどうなっているのか。もはや民衆に開かれた民主主義ではなく、一部のエリートに自由に開かれた自由な寡占的(オリガーキー)社会のみが存在していることになる。

しかし他方で、ロシアなどの地域ではかえって民衆の平等が支配し、確かに選ばれた政治家が権威主義的な力をもつことはあるが、それ自体は公平な民主的制度によって担われているともいえる。そうした社会をトッドは、全体主義社会ではなく、権威的民主社会と表現する。

「権威主義的民主社会」の浮上

そうなると、自由と民主主義vs全体主義という図式はもろくも崩れ、寡占的自由な社会vs民主的権威主義との対立となり、そもそも西欧が守っているものは、今では自由と民主主義ではなく、寡占的な自由な社会であるというのだ。

今の民主主義社会は、かつては衆愚社会と呼んでいたものですらなく、無能な一部エリートの寡占的社会だというのだ。

こうして西欧の政治家たちやジャーナリストたち、学者たちエリートは、内輪のセレブな社会にいそしんだ結果、ウクライナで起こっていることの判断を間違ったというのだ。

現実に起こっていることから、何を読み取るかではなく、今まで信じて来た安定と平和という価値観から抜けだすこともできず、現状にただ驚き、うろたえ、現実をしっかり見ることもできず、自らが現実の歴史の中にいることを忘れ、歴史の傍観者になっているのだという。

そして「さらに悪いことに、彼らは旅行者として歴史を横断し、ヴァカンス中の夜に「モノポリー」のゲームを楽しむように、言葉でヨーロッパを作りあげ、人々を煙に巻いたのである」(162ページ)。

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