DV被害者を守る「シェルター」の厳しい実情 人命を守る活動に予算が十分に下りない

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――ところで、近藤さんがDV被害者支援にかかわったきっかけを教えていただけますか。

なぜ?と聞かれたら、「女だったから」というのがいちばんいい答えでしょう。私は大学紛争世代なのです。学校を出た後はいろいろな仕事をしまして、いわゆる「ルンペンプロレタリアート」でした。出産・育児など経験して、1990年代始め、札幌に住んでいました。

当時、さまざまな女性運動をやっていたのですが、何かあるたび署名を集めたりするのは大変だから、女が集まるスペースを作ろう、ということになりました。そうしたら、まだオープンする前から黒いビニールに子どものおもちゃを詰めて持ってくる人や、夜行列車を乗り継いで逃げてくる人が相次いだのです。皆、今でいうDV被害者の女性たちでした。

家庭内で起きている暴力被害の大きさに驚き、友人のアパートや教会など、逃げ場を確保し、彼女たちをかくまいました。その後、1995年の北京女性会議で、こうした運動に携わる女性たちのネットワークができたのです。1998年には北海道を8つの地域に分けてシェルター活動を始めました。当時の北海道では6対4でシェルターは民間主導だったのです。

現場で女性たちを助ける活動を続けるうちに、日本中、どこでもDV被害者を助けられる法律をつくりたい、と考えるようになりました。最初のうち、支援者は「そんなの無理」と考えていました。役人は「何とかなるんじゃないか」と比較的楽観的でした。そういう中で「こんな目に遭った」という被害者の声がどんどん集まってくる。その声に支えられるようにして、今まで動いてきました。

DV対策で、動いてくれる人は少ない

――民間主導で進んできたことがわかります。DV関連予算を確保する前提で、シェルターの運営は、もっと民間に任せてもよさそうですね。

そうです。理念もノウハウも、民間が蓄積していることを行政の人にわかってほしいのです。私たち民間のDVシェルターは、男女共同参画センター、婦人保護施設など、行政向けに多くの研修を手掛けています。

緊急対応は警察の仕事だと思いますが、それ以降はスキルとノウハウと志のある民間機関に任せてほしいと思っています。

――「女性が輝く社会」は政府目標だと思いますが、DVや性暴力に対する政治家の反応はいかがでしょう。

はっきり申し上げて、DV対策について、多くの議員は口では賛成しますが、本当に動いてくれる人は少ないのが現状です。

お話してきたように、DV対策の予算は組まれているのに、公設のシェルターが十分に仕事をしていない現状、加害者が野放しになっている現状で、どれだけの税金が無駄に使われていることでしょう。

表面は元気そうに見える社会でも、女性に対する暴力が潜在化しているのです。子どもたちに、反暴力教育を提供することを含め、この社会のありようを反映している暴力と、それへの対処を真剣に考え直さなくてはいけない、と思います。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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