納骨から10年が過ぎた。会いに行ってやらなければ、と思いながら、日常の雑事に追われ、先延ばしになっていたのだった。
脳梗塞の後遺症から、半身にマヒが残った奥田さんは、ひとりで遠出することができなくなった。それでも、墓参りのことをいつも考えていた。
家族のいない奥田さんの財産を管理しているのは成年後見人の契約を結んだ司法書士の上山浩司さんだ。定期的な面会のたびに、奥田さんは上山さんに「体がこうなる前に妻の墓参りをしておくべきだった」とこぼした。
上山さんとしては、その要望に応えたいとは思うものの、彼は契約者である奥田さんの財産を守る立場の人間だ。少なくないであろう旅費をかけてまで、奥田さんを岐阜まで連れて行くのが果たして正しいのか、上山さんは悩んでいた。
そんなおり、契約している不動産会社から東京都中野区にある奥田さんの自宅が売れたという知らせが入った。おかげで奥田さんにまとまったお金が入った。この一部を使えば、岐阜旅行も不可能ではない。
上山さんがそのことを話すと、それまで沈みがちだった奥田さんの表情がぱっと明るくなった。
「死ぬ前に、どうしても一度、故郷に帰りたい。そして長年気になっているお墓の様子を見たい。他人から見たら小さな願いかもしれないけど、私にとってはとても大きな願いなんです」
この言葉が1泊2日の墓参りツアーの開催を決定させたのだった。
そして、「日本ツアーナースセンター」のもとへと、依頼が舞い込んだ。
選ばれたのは、元・自衛官看護師
奥田さんの墓参りツアーを担当することになったのが、日本ツアーナースセンターに登録する佐々木昭看護師(61)。
彼の経歴は少し変わっている。54歳まで、海上自衛隊で、自衛官看護師として活動していたのだ。
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