西友、脱「ウォルマート」システム全面刷新の裏側 スーパーでは異例、わずか3年で全面刷新を断行

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そこで西友が導入したのが「アジャイル開発」だ。システム開発手法の一つで、必要最低限の機能を備えた未完成品の状態で運用を始め、営業の中で細かく仮説、検証を繰り返し、不具合の修正や追加機能の拡充を行う。

EC業界では浸透している手法だが、日系のスーパーでは珍しい。「店舗の運営に影響が出ることはあってはならない」という意識が根強く残るからだ。スーパーの営業部や商品部にとって、冒頭のような品切れが起きることはタブー。システムの更改にあたっては、「通常の営業に支障をきたさないこと」が何よりも優先される。

マネジメント層が積極関与

しかし、今回は時間がない。西友は期限を守るためにリスクをとる必要があった。そこで今回のプロジェクトでは大久保恒夫社長以下、マネジメント層が積極的に関与。「とにかくシステム移行を最優先」という全社的な方針を打ち出した。移行作業がピークを迎える昨年秋以降は、システムに負荷がかかる棚割の変更や広告宣伝を徹底的に簡素化させ、DXのメンバーが作業に集中しやすい環境を整えた。

冒頭のような一部欠品は生じたものの、当初懸念していた営業停止など大きな問題は起こらなかった。そうして昨年末、パートナーであるベンダー各社に「絶対無理」とまで言われたプロジェクト、3年間でのシステム「脱ウォルマート」化を完了した。

荒木氏は今回のプロジェクトを次のように振り返る。

「小売業が求めるシステムの品質はかなり高いうえ、業界では完成品の納品を待つ開発手法が主流だ。だが一方で、開発期間が長期化することも多く、追加費用の発生でシステムベンダー側がもうかる構図になっている。変化の激しい現代、小売業はもっと大切なことに資源をかけるべき。今回のプロジェクトはいい事例の一つとなるかもしれない」

重要なのはこれを機に西友がどう変わるかだ。

西友は北海道から熊本県まで店舗網を持つ。楽天とは資本関係は解消したものの、協業を続けており、同社の会員情報にもアクセスできる。本来、これらから得られるデータは、マーケティングや商品の最適化に強力な武器となるはず。西友自身も2025年12月期までの中期経営計画の柱として、データ活用の強化を掲げている。

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