老舗書店が創った「絵本グッズ」という新たな市場 エフェクチュエーション理論で読み解く(前編)
2021年には、さまざまな出版社の絵本の主人公やストーリーをモチーフにしたグッズを販売する「EHONS」が常設売り場として丸の内本店にオープンします。自社がプロデュースするオリジナルアイテムに加え、独自の選択眼が光る他社グッズも並ぶ、言ってみればセレクトショップのような存在です。
「EHONS」は、他の売り場をはるかに上回る坪売り上げを記録し、2022年には大阪、2023年には福岡にも出店を拡大しました。
緊急事態宣言という誰も予測しえない事態を次の成長の機会にできたのは、現実を受け入れたうえで、新たな環境の中で生じた人々の行動変化を見落とさず、それを積極的に活用するアイデアに最大限の柔軟性をもって対処したからにほかならないでしょう。
老舗書店ならではの強み
本を仕入れて売るのと、グッズを一から製作して売るのでは、同じ小売りとはいえ、全く別のビジネスです。丸善にそれができたのは、もともと持っていた資源を、新規事業の創出にも有効に活かすことができたためでした。
第1の資源は、長年培ってきた出版社との関係です。懇意の営業担当者から絵本の編集者や権利関係の部門につないでもらい、事業プランを説明しました。自社の大事なコンテンツを扱わせる以上、出版社が慎重になるのは当然ですが、書籍販売の歴史と実績に加えて出版事業も手がける丸善ならば、前向きに検討してもらえます。
しかし、肝心の絵本作家が首を縦に振らない限り、グッズ化は実現しません。ここで丸善側は前面に立たず、出版社に作家との交渉を担ってもらう選択をします。自分が描き出す世界に強い愛情と誇りを持っているからこそ、より多くの人に作品を知ってもらい、さまざまな形で身近に感じてほしいという思いと、安易な商品化に対する不安が交錯する。そんな作家の気持ちに寄り添えるのは、出版社の社員だと考えたのです。
出版社を間に挟み、アイテム選定からデザイン、細かな色味や線の太さ一つまで、本人の要望を聞きながら完成度を上げて製品化にこぎつけることができました。