老舗書店が創った「絵本グッズ」という新たな市場 エフェクチュエーション理論で読み解く(前編)

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その出自ゆえに起業家のための理論と思われがちなエフェクチュエーション理論ですが、閉塞感を抱える大企業や老舗企業がイノベーションを起こすうえでもきわめて有効です。150年の歴史を誇る丸善で丸の内本店の店長を務める篠田氏の危機意識とそれに突き動かされるように始めた行動は、まさしく先に挙げた「レモネードの原則」になぞらえることができます。

吉田満梨(よしだ・まり)/神戸大学大学院経営学研究科准教授。
吉田満梨(よしだ・まり)/神戸大学大学院経営学研究科准教授(撮影:尾形文繁)

コロナ禍のある日、ふと思いついて秋葉原を訪れた篠田氏は異様な光景を目にします。外出自粛により、いつもの活気が嘘のように静まり返る街に、1軒だけお客であふれるアニメショップがあったのです。覗いてみると、先行販売や限定販売など、その店でしか買えないグッズにファンが群がっています。お客同士の会話に耳を傾けてみると、SNSの告知で情報をキャッチして、この店に来るためだけに遠くから来た人も多いようでした。

絵本雑誌のグッズ販売で好スタート

「どんな状況下でも気持ちを揺さぶられる対象、そこにしかない付加価値の高いものがあれば人は足を運ぶことを思い知らされました。では、私たち書店が提供できる価値は何か。考え抜いてたどり着いたのが、絵本雑誌『MOE』から生まれたグッズを販売するポップアップショップです」

早速『MOE』(白泉社)の協力を仰ぎ、絵本の主人公やストーリーをモチーフにしたオリジナルグッズを製作。貴重な複製原画やバックナンバーなどと一緒に並べて、絵本の世界を丸ごと楽しめる空間を作り出します。

そんな売り場の様子をSNSで発信すると、熱心なファンが全国から訪れ、先を競うようにグッズを買っていきました。リアル店舗ならではの絵本の世界に没入する体験価値は、コロナ禍でも、わざわざ足を運ぶに値するものだったのです。

絵本や雑誌の売り上げも3倍程度にまで増えたそうです。かねて「仕入品を売るだけのビジネスからの脱却」をめざしていた篠田氏にとって、主力の書籍販売との相乗効果が期待できる新規事業の好スタートは手応えを感じさせるに十分でした。

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