「トーマス列車」鉄道会社の再建を阻むもの 大井川鉄道は生き延びることができるか(下)

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では、なぜ地元と大井川鉄道との間で温度差があるのか。

原点が忘れられてしまった

原点が忘れさられ「観光資源」としての要素ばかりが強調されてしまった。

それは、SL急行があまりにも成功しすぎたことで、同社の「観光資源」としての要素ばかりが強調されてきたからだ。

議会の議事録を見てみても、話題になるのはトーマス号と観光客誘致と駐車場対策の質問ばかりだ。今年、新規作成したパンフレットではSLを見物できるビュースポットを紹介しているようだ。ただ、見物客だけでは鉄道の収入にはつながらない。

島田市と旧金谷町、旧川根町の合併問題がマイナスに働いた可能性はある。沿線以外の住民にとって、大井川鉄道は自分たちとは無縁な存在だ。当事者意識は薄い。ある市議は「旧島田の市民からすると、なかなか大井川鉄道さんが島田のものだという感覚がまだあまりないのですね」と発言しているが、それが本音なのだろう。

旧川根町では、存廃を不安視する意見、住民の足としての価値に期待する声も議会でそれなりに話題となっていた。経営危機が伝えられた昨春、一部で減便を強行した鉄道の将来を危惧する議員はいた。そうした声もいつしか埋没してしまっている。残念な話だ。

大井川鉄道を地域の「観光資源」として割り切る選択肢もある。営業区間を新金谷—家山間に短縮し、SL運転に特化。残りは廃止してバス転換してしまう。営業距離が半分になれば、保線など設備維持の費用を相当節減できる。

もちろん、それは地元や新会社が目指すべき将来像ではない。約40年前、白井氏ら当時の経営陣は存廃の危機に瀕していた会社を救うために、SL急行で観光客を呼ぼうと試みた。地域の足としての鉄道を守るためのアイデアである。その原点がいつしか忘れられたのかもしれない。

自治体も財政支援を検討する段階に来ている。車両更新への補助、上下分離……鉄道存続のための知恵はほかにもあるはずだ。

静岡県庁の動きが目立たないのは残念だ。今年度、富士山静岡空港新幹線新駅関連調査事業費に2000万円を予算化している。空港活性化対策として島田市の金谷駅地区の東海道新幹線に新駅をつくる構想ではあるが、その必要性と現実性には疑問符が投げかけられている。住民に密着した小鉄道にも少しは目配りして欲しい。

新生・大井川鉄道と自治体、そして関係者が同じテーブルに着き、あり得べき未来像を議論して、次の展望を切り開いてくれることも切に願うばかりである。

森口 誠之 鉄道ライター

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。主な著書に『鉃道未成線を歩く(国鉄編)』『同(私鉄編)』など。

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