「トーマス列車」鉄道会社の再建を阻むもの 大井川鉄道は生き延びることができるか(下)

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島田市の染谷絹代市長は「企業努力が足りない」「地域の公共交通機関として地域に寄り添った経営に心がけるべきだ」と発言している。川根本町議会では「大鉄幹部の営業努力にも問題があった」「利用者や地元軽視の経営姿勢でもあり、大井川鉄道の経営者の責任と親会社である名古屋鉄道の指導責任は大変重い」と主張する議員もいた。

では、沿線の島田市や川根本町は、住民の足である大井川鉄道に寄り添った姿勢を示してきたのだろうか。正直、疑問だ。

2005年に「大井川・周辺地域活性化協議会」を設置した後、特に目立った動きをしてこなかった。川根本町は大井川本線の運賃補助をしているが、その金額、年間わずか3.3万円だけである(2012年度)。島田市も今年4月から半年限定で運賃補助を始めたが、直接的支援には繋げたくない模様。鉄道が地域の公共交通機関として危機的な状況にあることを直視してこなかった自治体側にも少なからず責任はあるだろう。

沿線人口の少なさでは全国トップクラス

沿線の島田市と川根本町の人口を足すと10万人を超えるが、交通ジャーナリストの鈴木文彦氏は大井川本線の実質的な沿線人口を1万4〜5千人とし、「沿線人口の少なさではトップクラス」と指摘している(「鉄道ジャーナル」2006年7月号)。

大井川本線の年間乗車客数は1995年に124万人いた。それが2000年に98万人、2005年に78万人と、10年間で37%ダウンしている。収入も35%減だ。この間、定期客の主力である高校生の数が激減したこと、それと、2003年の災害で半年間運休したときの落ち込みを回復できなかったことが大きい。

2005年度の地方鉄道の輸送密度を見ると、大井川鉄道は819人/キロメートルだった。旧国鉄系の第三セクター鉄道を除いた46社のうち42位、地方鉄道が維持できる基準とされる輸送密度2000人という数字を大幅に下回っている。

同水準だった会社の多くは、その後、廃線になったり、自治体の出資を受けたり、別会社で経営再建に取り組んだりしている。2012年度の輸送密度は717人/キロメートルとさらに低い水準になっている。SLで利益さえ出れば、地元負担はいらなくなると考えていた節はある。

島田市が9300万円投じて新金谷駅に設置したターンテーブルは2011年に完成した。上り千頭発の便の利用者は下りの半分程度。観光客の評判の良くないバック運転を解消して観光資源としてのSLの魅力をアップしようという試みだ。観光客誘致策としてはそういう手法はあろう。

その一方、住民の足として鉄道を維持するための努力はしていたのかは微妙だ。市と川根本町はバス事業に補助金を注ぎ込み、鉄道線と並行する激安のコミュニティバスやオンデマンドバスを走らせている。数少ない地元の鉄道利用者はさらに減少してしまっている。根本的なところで矛盾が生じている。

次ページ地元と大井川鉄道との間で温度差ができた理由
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