「トーマス列車」鉄道会社の再建を阻むもの 大井川鉄道は生き延びることができるか(下)

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①「情報発信力」

昨年、「トーマス号が走る!」と全国で話題になったにもかかわらず、現地はかなり混乱した。先着順とされた予約方法も複雑でわかりにくかった。ホームページを見ても、どこに手順が説明されているのか。欲しい情報になかなか行き着かなかった。電話で問い合わせてもずっと話し中だ。

駐車場があるのかどうか、そもそも駅はどこにあるのか。なにも分からず自家用車で現地を訪れ、周辺道路は大渋滞し、路上駐車があふれて、でも見学スポットにも入れない。観光客からも住民からも苦情が相次いだ。

今年から予約方法は変わった。6月現在でも4カ月先の10月分まで満席。直前のキャンセル待ちも即完売している。大人気なのは喜ばしいことだが、使い勝手はよくないままだ。来年は、より便利な予約システムの構築をしてくれると期待したい。

新経営陣が目指すべき3つの方向性

②「ツアー依存体質からの脱却」

「SL急行」利用者は2000年代前半に20万人強だったのが、2006年に25万人、2009年には28万人を超えた。東京や名古屋からの日帰り団体バスツアー客が増えた影響だ。

ただ、その数ほど増収には繋がらなかった。利用が新金谷—家山間に集中してしまい、客単価が約半分に下がってしまったのだ。旅行会社としても、日帰りツアーのお得感を出すためには鉄道に払う費用を抑えないといけない。ツアー客もSL急行に長時間乗車するのを喜ばない。さらに先述のバス規制が始まると、大井川ツアー自体を中止してしまった。

トーマス号運行後は、東京からの日帰りバスツアーも復活した。ツアー代金は1万円を超えるが、各社とも人気のようだ。

ただ、旅行会社の人気商品となった日帰りツアーも以前ほどの勢いはない。地元に落ちる金にも限りがある。旅館の閉鎖が相次ぐ寸又峡温泉など周辺施設との連携をもっと深めて、相乗効果を出せるようにしないといけない。

国内旅行のスタイルが変わる中、旅行会社への依存を続けるかどうか。一考するタイミングに来ていると思う。トーマス号の全座席の3割の座席をツアーのために用意しているという。閑散期も含めて一定数の観光客を送り込んでくれる旅行会社への配慮があるのだろう。中長期的に見ると、個人客にもっと配慮する施策も必要になってくるだろう。

③「公共交通機関を維持するための地元との連携」

沿線の島田市や川根本町、静岡県に対して、地域の足としての役割をもっと認識してもらうことだ。

今回の危機は大井川鉄道の現経営陣が、もっと早い段階で苦しい台所事情を説明し、きちんと問題提起しておけば、もう少し違う局面になったかもしれない。親会社の名鉄や借入先の静岡銀行の都合もあったのだろうが、昨年のダイヤ改正直前になって普通列車の4割減便を発表し、SOSを出したやり方も褒められたものではない。

次ページ以前からきわめて厳しい経営環境にあった
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