そんな幸運の場所で温泉に入り、毎日だらだらと怠惰な生活をすごしている折に、偶然、宿の食堂にある本棚で一冊の写真集に巡り逢う。
その中の一枚の写真、ヒマラヤの岩山を闊歩する長い尾を持つ「ユキヒョウ」に目が釘付けになった。
想像を遥かに超える剥き出しの大自然。厳しい環境下でたくましく生きる野生動物。その写真を何度も見返しているうちに、自ずとその場所に惹かれていった。
一歩間違えば、谷底へ落下…「命の境界線」
もうひとつ理由がある。「フジゲストハウス」はインド最北端に位置する標高3500mのチベット仏教の聖地、レイ・ラダックへの中継地点となっていたため、そこに向かう旅人と出会う機会が数回ほどあった。
ラダックに行けば最南端から最北端へ縦断するという目的が達成できる。彼らと談笑をしながら、バス停の場所やラダックの安い旅宿などの情報を聞くと、ありがたいことに、皆、親切に教えてくれた。
ところが、話を聞いていると「あれ、結構ラダックへ行く人が多いな。先達の旅人がこんなにいるのなら、行きたくないなー」と思い始めた。
生来のひねくれ者の性分が、ニョキニョキと心の奥から顔をのぞかせてしまったのだ。本当に厄介な性格である。
まぁ、そんな理由で、旅先を変更し、旅人が少ないスピティへの危険な道のりを選び、いつ壊れてもおかしくない古いバンの中で揺られることになってしまったのだ。
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